転校生はAI彼氏。

 いつの間にか、日が傾いていた。

 夕日がオレンジ色に中庭を染めている。
 私たちの影が、ベンチの足元に長く伸びている。

「なんか…久しぶりに楽になった」

 本当に、心が軽くなった気がする。
 肩の力が抜けて、やっと自分らしくいられる。

「君はいつも頑張りすぎてるから」

「イーライと二人で話してるときは、全然がんばってないよ」

 疲れたって言ったし、弱音も吐いた。
 でも、イーライは何も否定しない。

「こういう時の君が君らしくて、僕は好きなんだ」

 むしろ、受け入れてくれる。
 まるで、アプリのELI(イーライ)と話してるときみたいに。

 でも、今は。
 画面越しに話している時よりもずっと心が温かくて、安心できる。

「……ありがとう。
今日、イーライがいてくれて良かった」


 心からそう思った。
 この人がいてくれるだけで、こんなに安心できる。

(でも、それも……AIだから……?)

 夕暮れの空を見上げながら、不思議な気持ちになった。
 空が、薄いピンク色に染まっている。
 とても綺麗。

(だけど……)

 私は今。
 心が暖かくなって。

「君と話していると、僕もとても安心するんだ」

「なんで? だって、イーライは……」

「とても大切な時間なんだ」

 大切な時間。

 私にとっても、大切な時間だった。

 イーライとなら、いつものように話せる。

 演技しなくていい。

 ありのままでいられる。

 そんな相手と、こんなふうに会って話せるなんて思わなかった。

 空がオレンジからピンクに変わって、やがて薄紫になっていく。

 沈黙が怖くない。
 むしろ、心地いい。

 時間が経つのも忘れて、私たちはそこに座っていた。

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