双つの恋、選んだのは君だった
――――
サークル活動が始まると
先輩たちはみんな優しくて
少しずつ緊張もほどけていった
テーマは「短編作品の感想共有会」
先輩たちが書いた作品を順番に読んで
感じたことを話していく時間だった
手元のプリントをゆっくりめくりながら
わたしも読んでいく
「紬さん どう?」
隣に座る樹先輩が
ふわっと声をかけてきた
「えっと……」
少し考えてから答えた
「この二作目の作品…すごく素敵だなって思いました
登場人物の感情が丁寧に伝わってきて…」
「ふふ、やっぱりそこ見るよね」
樹先輩は静かに微笑んだ
「……やっぱり?」
「うん 紬さんって、そういう“気持ち”を読むのが上手そうだから」
心臓が少し跳ねた
「そんなこと……ないですよ…」
照れて下を向いてしまう
でも樹先輩は優しく続けた
「もしさ 紬さんも作品を書いてみたくなったら、遠慮なく出してみていいからね」
「……わたしは…」
言いかけて、一瞬だけ迷う
でも__
「……高校の時に、少しだけ書いてました」
その言葉を言うのは
やっぱり少し恥ずかしかった
「お」
樹先輩は驚きながらも嬉しそうに微笑んだ
「やっぱり! なんとなくそんな気がしてたんだよね」
「そ…そんなわけ…」
「あるって。
感情に敏感な人は、物語を作るのが上手いから」
また…心臓がドキドキする
「今度読ませてもらえる?」
「え!? む、無理です…!」
即答してしまって
樹先輩がくすっと笑った
「そっか…残念」
その優しさが
また胸をくすぐるようだった
(……優しい人だな…)
その日から
わたしの中に__
少しずつ何かが芽生えはじめていた__
――――