双つの恋、選んだのは君だった
――――


サークルが終わったあと

「駅まで一緒に行こうか」

樹先輩が自然に声をかけてくれた

「あ、はい…!」

緊張しつつも
どこか嬉しかった

二人で並んで歩くのは
今日が初めてだった

夜風が少し冷たくて

わたしは小さく肩をすくめる

「寒い?」

樹先輩がふと覗き込んできた

「……大丈夫です」

けど、声はちょっと震えてしまってたかもしれない

「無理しなくていいのに」

そう言って
樹先輩はそっと自分のカーディガンを肩にかけてくれた

「あ……」

「返してくれればいいから」

あたたかさが背中に伝わってくる

それよりも
その優しさに胸がまたきゅっとなる

「……ありがとうございます…」

「どういたしまして」

ふわっと笑う樹先輩の横顔が
ほんの少しだけ近く感じた

__こうやって歩くのも
悪くないなって思ってしまう自分がいた

だけど__まだこれは“特別”じゃなくて

ただ“居心地がいい”だけだった

そのはずなのに

(なんでだろう…)

胸の奥が
少しだけふわっと浮かぶ感じがしてた__

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