双つの恋、選んだのは君だった
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講義の合間に図書館に寄った日
静かな空間に
本をめくる音だけが響いてる
「紬ちゃん」
ふいに聞き慣れた声がして顔を上げた
「樹先輩…!」
同じテーブルにそっと腰掛ける
「集中してた?」
「……少しだけです」
机の上には文学作品の参考書が何冊も積まれていた
「ずいぶん本格的だね」
「次のサークル課題が”心情描写”って聞いたので…
少し勉強しておこうかと思って」
そう言うと樹先輩はふわっと笑った
「えらいなぁ」
その優しい声だけで
また胸がきゅっとなる
「……なんでそんなに褒めるんですか?」
また思わず口に出してしまった
樹先輩は少しだけ
悪戯っぽく目を細める
「ほんとにそう思ってるから
それだけ」
「……先輩、優しすぎます」
「紬ちゃんが、素直に頑張ってるからでしょ」
その言葉にまた
胸が熱くなるのがわかった
……最近、こうやって話してるとき
すごく変な感じになる
別に恋とか
そんなのまだわからないけど
なんでこんなに
ドキドキするんだろうって思ってしまう
「よかったらさ」
ふいに樹先輩が声のトーンを落とした
「今度、紬ちゃんが高校のとき書いてた作品……
ほんの少しだけでも、読ませてくれない?」
……ドキン
また…その話だ
「……む、無理です…!」
やっぱりまだ
恥ずかしすぎて首を振ってしまう
樹先輩は、優しく微笑んだままだった
「そっか いつか、気が向いたらね」
その”優しさ”が
逆にまた胸を苦しくさせた__
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