本屋のポチ
「何食べたい?」
「何でも良い。あなたの好きなもので」
「ヨーグルト1個って言ったらどうするの」
「そうするよ」

古本屋と美容院の合間の細い階段の下で、触れるだけのキスをした。
名残惜しそうに彼が私の唇にそっと触れる。冷たい指先に移るサンゴ色をじっと見て、彼がその指を自分の唇にふわっと乗せた。
リズミカルに傘をたたく雨音に包まれて、おだやかになっていく心音を感じる。なんてすがすがしい空気。きみとふたりでいるだけで。

同じ速度でゆっくりと駅まで歩き、私は傘をたたんだ。改札を抜けて階段を上りホームへ向かう。ちょうど電車がすべりこんできた。たくさんの疲れを乗せて。

「駅に着いたらスーパーで買い物していこうよ」
「今日は俺がおごるよ」
「え? ありがとう。でもなんで?」
「あなたが会いに来てくれたから」
(うーん。
可愛い!!)
< 11 / 13 >

この作品をシェア

pagetop