本屋のポチ
昨日発売の雑誌がもうない!? 私はあわてて本棚の下の引き出しを開ける。
え、在庫ない。今日も入荷してない? あれ、今回、話題のタレントさんの記事でもあったかな。
(店長に言わなきゃ)
私は、人波を社交ダンスのようにするりと避けながらレジへ向かう。
「いらっしゃいませ」

私をレジで出迎えたのは、今年入ったばかりの新人さんだった。この3月まで大学生だった子だ。
「済みません」
「はい」
今時流行らない黒髪の坊ちゃん刈りに黒縁眼鏡。真っ白な丸い顔。
細身。だが、身長が高い。180センチメートルくらいあるだろう。
控えめに小さく発した声は外見に反してかなりの低音で心地良い響きだ。
白と水色の縦ボーダーの制服がびっくりするほど似合っていない。確か大学では地理を専攻していたのだったか。

「昨日発売した園芸雑誌はもう完売したんですか?」
「園芸雑誌」
私の質問に彼はぼんやりした口調で答えた。答えたと言うよりおうむ返しだ、ただの。
「今、お調べしますので少々お待ちください」
のんびりとしたような、ぼーっとしたような低音で彼は答えた。定型文だ。私は社員なのに。
(おもしろい!!)
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