君がくれた明日
君と手をつなぐ日常




 

夏が近づいてきた頃──

 

「ちはやくん、今日さ…寄り道して帰ろ?」

 

叶愛が、少しだけ小首を傾げながら言った

 

「どこ寄るんだよ?」

 

「内緒!」

 

「おい…」

 

いたずらっぽく笑う叶愛の手を、自然と繋いでいた

 

人通りの少ない裏道を歩きながら
指先がゆるく絡まる

 

その距離が、妙に心地よかった

 

 

「着いたー!」

 

連れてこられたのは、小さな喫茶店だった

 

大通りから少し入った場所にある、レトロなカフェ

 

「前から気になってたんだ」

 

嬉しそうに微笑む叶愛

 

 

席につくと、メニューを開いた彼女がすぐに目を輝かせた

 

「パンケーキだって!これにしよ!」

 

「ほんと甘いの好きだな」

 

「甘党なんだもん」

 

「糖分取りすぎだぞ」

 

「えー、だって今日ちはやくんに甘える日なんだもん」

 

「は?」

 

顔が熱くなる

 

その俺を見て
叶愛はくすくすと笑った

 

 

 

──パンケーキが運ばれてきた頃には、二人の距離はさらに近づいてた

 

 

「はい、ちはやくんも一口」

 

「いや、自分で食べるから」

 

「いいから、あーんして?」

 

「…マジでやるの?」

 

「マジでやるの」

 

 

照れながらも口を開けると、ふわっと甘い匂いが鼻をくすぐった

 

「……うまい」

 

「でしょ?」

 

得意げに笑う叶愛

 

 

俺はその笑顔を見るだけで
何よりも幸せな気持ちになった

 

 

「……こういうの、ずっと続けたいな」

 

「ん?」

 

「こうやって、くだらない話して、笑って、食べて」

 

「うん…私も」

 

叶愛は小指を出してきた

 

「約束しよ?」

 

「……約束」

 

小指と小指が絡まる

 

俺たちの”おまじない”

 

 

──この日々が、いつまでも続きますように──

 

そう心から願っていた

 

 

【*】

 

 

文化祭前日

 

夕方遅くまで教室の飾り付けをしていた俺たちは、静かな屋上に抜け出していた

 

 

夕暮れが、空を淡いオレンジ色に染めていた

 

 

「ちはやくん、綺麗だね」

 

「…お前の方が綺麗だけど」

 

「え?」

 

「…なんでもねぇよ」

 

顔が熱くなる

 

その俺の顔をじっと見つめながら
叶愛がそっと唇を寄せてきた

 

 

──柔らかい感触が、触れた

 

 

一秒、二秒──

 

ゆっくり離れていく唇

 

「……初めての、キス」

 

「…お前からするなよ」

 

「ふふ。ちはやくんが照れるの、可愛いから」

 

その声が愛おしくてたまらなかった

 

 

夜風が吹き抜けた屋上で
俺たちは、しばらく黙って手を繋いでいた

 

ただ、静かに心臓の音だけが響いていた

 

 

 

──
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