君がくれた明日
始まりの鍵



 

 

鍵を受け取った日──

 

「……ほんとに、今日からなんだね」

 

玄関の前で鍵を差し込む叶愛の手が少し震えてた

 

「当たり前だろ。やっとだな」

 

「うん……夢みたい」

 

カチャリと鍵が回る音が響く

 

ドアを開けると、二人だけの部屋が静かに待っていた

 

真新しい匂い
広くはないけど、俺たちには十分すぎる空間

 

「わぁ……やっぱり広く感じるね」

 

「家具もないからな」

 

「ちはやくんの服、こっちのクローゼットに入れてね?」

 

「おう」

 

「こっちにわたしの服ね」

 

「いや、絶対そっちの方が圧倒的に多いだろ」

 

「当たり前だよ、女の子だもん」

 

叶愛がくすくすと笑った

 

 

床に並んだ段ボールを開けながら、二人で少しずつ部屋が形になっていく

 

カーテンをつけて、ソファを置いて、ラグを広げて──

 

「ちはやくん、ちょっと休憩しよ?」

 

「もうか?」

 

「だって疲れたんだもん」

 

叶愛は俺の隣にぴったりと身体を寄せた

 

「こうやって並んでるだけで、もう幸せだね」

 

「だな」

 

俺は肩を回して、叶愛の頭を自分の胸元に引き寄せた

 

そのまま静かに目を閉じる

 

──この時間が、永遠に続けばいいのに

 

本気で、そう思った

 

 

【*】

 

 

初めての夜──

 

「……眠れない」

 

「お前子供かよ」

 

「だって、ちはやくんの隣で寝るの、なんかまだドキドキするもん」

 

「俺も」

 

「ふふ…」

 

暗がりの中で
そっと唇が触れた

 

何度目かわからないキスは
静かな夜に溶け込んでいった

 

 

「ちはやくん」

 

「ん?」

 

「ここが、わたしたちの家なんだね」

 

「そうだな」

 

「……幸せになろうね」

 

「なるさ」

 

 

手を繋いだまま、眠りについた

 

 

【*】

 

 

日々は穏やかに流れていった

 

朝、二人で朝食を作って

 

昼間は仕事に出かけて

 

夜はお互いの帰りを待って、食卓を囲む

 

「今日はね、ちょっと頑張って煮込み作ったんだよ!」

 

「お、うまそ」

 

「ほんとはちはやくんの帰りに合わせて温め直したかったけど、我慢できなくて先に作っちゃった」

 

「待てねぇのかよ」

 

「だってちはやくんの『おいしい』が早く聞きたくて」

 

「……ほんと可愛いな、お前」

 

「言わせた〜!」

 

「うるせぇ」

 

 

何でもない会話が幸せだった

 

大きなことなんかなくていい

 

こんな日常が続くだけでよかった

 

 

【*】

 

 

たまにする将来の話も、自然と増えていった

 

「ちはやくん、子供って何人欲しい?」

 

「は?」

 

「いや、まだ先だけどさ。想像するだけならいいでしょ?」

 

「二人……くらい?」

 

「女の子だったらいいな〜」

 

「絶対甘やかしそうだな」

 

「ちはやくんもでしょ?」

 

「…まあな」

 

二人で声を合わせて笑った

 

「こうやって、いつか家族になっていくんだね」

 

「……うん」

 

「楽しみだね、未来」

 

「おう」

 

 

──それが俺たちの、何より大切な”未来”だった

 

【*】

 

 
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