君がくれた明日
君の"ありがとう"が溢れる午後




 

 

ある休日の午後──

 

叶愛がキッチンで紅茶を淹れてくれていた

 

「ちはやくん、今日はレモンティーにしてみたよ」

 

「お、珍しいじゃん」

 

「最近ちょっと疲れてたでしょ?ビタミンC摂取!」

 

「お前、ほんとそういうとこ優しいよな」

 

「ふふ、好きな人にはね」

 

俺はその優しい声を聞くだけで
胸の奥がじんわりと温かくなる

 

 

──でも

 

その日
ふとした瞬間、叶愛の指が小刻みに震えていたことに気づいた

 

「ん? おい、手どうした?」

 

「あ、え?な、なんでもないよ」

 

「ほんとに?」

 

「うん、たぶん…ちょっと冷えたのかな」

 

はぐらかすように笑う叶愛

 

俺はそれ以上突っ込まなかった

 

 

──少しだけ胸の奥に引っかかる違和感を感じながら

 

でも
またすぐに日常に戻っていった

 

 

【*】

 

 

冬が近づくにつれて、叶愛の体調は少しずつ崩れ始めていた

 

「ちはやくん、ごめん…ちょっと頭痛するから先に寝てていい?」

 

「大丈夫か?」

 

「うん…薬飲めば治ると思う」

 

「病院行く?」

 

「大丈夫。明日には治ってるから」

 

叶愛はそう言って笑うけど
その笑顔は、どこか無理してるように見えた

 

 

「無理すんなよ」

 

「うん…ありがと、ちはやくん」

 

 

その夜、寝室の隣で静かに寝息を立てる叶愛の背中を
俺はずっと撫で続けてた

 

守りたかった
何があっても、絶対に

 

 

【*】

 

 

年末

 

「ちはやくん、ごめん…ちょっと病院行ってくるね」

 

「え?」

 

「最近ちょっと続いてるから、念のため検査してもらうの」

 

「……一緒に行こうか?」

 

「大丈夫だよ。すぐ終わると思うし」

 

 

叶愛はいつも通り微笑んでた

 

不安なんて見せたくない、っていう
あの優しい叶愛のままで

 

 

俺は
ただ「行ってらっしゃい」と送り出すしかなかった

 

 

でも胸の奥は
ずっとざわついていた

 

 

【*】

 

 

検査の数日後──

 

LINEが届いた

 

『ちはやくん、検査結果出たよ』

 

すぐ既読をつけて返事を打つ

 

『どうだった!?』

 

少し間があった

 

スマホを握る手が汗ばむ

 

 

──数分後

 

『とりあえず大きな異常はないって! たぶん疲れだって!』

 

 

「…………はあああ……」

 

その瞬間、全身から力が抜けた

 

ほんとうに
心臓が潰れそうだった

 

 

すぐに電話をかけた

 

 

『かなえ…』

 

『ちはやくん……怖かったよぉ……』

 

電話越しの声が震えてた

 

『もう心配させんなよ…!』

 

『……ごめんね……でも、もう大丈夫だから』

 

 

それを信じたかった

 

心の底から、信じたかった

 

 

【*】

 

 

春の訪れと共に

 

俺たちはまた、穏やかな日常を取り戻していった

 

引き出しの奥にしまった検査結果用紙も
もう開くことはなかった

 

 

──ほんとに
何も起きないんだ

 

そんな風に、思い始めていた

 

 

……でも

 

この静けさの中に
すでに「運命」は潜んでた

 

 

【*】

 

 
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