溺愛の業火
放課後、私たちは黙々と作業を進めた。
ざわついていた教室内は人が減るにつれて、静けさを伴っていく。
「篠崎、聞きたい事があるんだけど。」
彼が私に何を尋ねるのだろうか。
「何?」
「好きな奴、いる?」
好きな奴?
いきなりの質問に間をおいて考えるけれど、その意図も自分に該当する相手も思いつかなかった。
「今は居ない。」
下を見たまま作業をしながら安直に答えたけど、深い意味などない。
それなのに。
「今は?前は居たって事?」
どう答えていいのか分からず、作業の手を止めて目を上げた。
思わず息を呑む。
「ねぇ、訊いているんだけど。答えてくれるかな。」
彼の優しいイメージが覆る様な表情に息詰まる。
私の何が、そうさせてしまったのだろうか。
書類とホチキスを持った手を膝に置き、視線を少し逸らして答える。
「これから、好きな人くらいは出来ると思う。」
今までよりは、これからの事が頭にあったのだけど。
確かに初恋や憧れは経験してきた。でもそれは、彼の知りたい答えじゃない気がする。
「篠崎。俺さ、君の事が好きなんだ。今、特別な誰かが居ないのなら付き合って欲しい。」
逸れていた視線が、思わず真っ直ぐになってしまう。
目が合って、彼の気持ちが怖いぐらいに伝わる。
「ごめんなさい。私では、清水くんに相応しくないと思うんだよね。もっと可愛くて……」
「俺は、篠崎和叶を好きになったんだよ。俺の事、嫌い?」
ずるい質問だ。好きか嫌いか聞かれても、答えに困る。
彼の告白に、私は顔が真っ赤で体が熱いし、心臓がバクバクして頭はパニックだ。