溺愛の業火
足りない。もっと触れたい。触れて欲しい。
こんな通学路で何を求める気なんだろうか、私は。
「ふふ。嬉しいな。」
満足しよう。
私の我儘に付き合ってくれるのだから。
また隣を歩きながら、会話を始めた一颯くんは度々、私の視線を確認して微笑む。
贅沢だ。彼の好意を何度も断り続け、周りを気にする自分勝手に嫌気がしていたのに。
握る手は、少し汗ばんでいるような。
「あ、そろそろ学校が近いし。離した方が。」
私は焦って、手を離そうと引いた。
それを止めるような力で、彼は引き戻す。
「いや、このまま。俺は。」
眼は私の心を突き通すように真っ直ぐ。
「お・は・よ・おぉ~!」
大きな声と同時の衝撃。
正確には、一颯くんに圧し掛かった力が手を伝わって来ただけ。
「松沢、重い。」
「松沢くん、おはよう。」
私たちの反応に、彼は口もとだけの笑み。
「あはは。イチャついてんじゃねぇ。」
あれ、ご機嫌斜めですか?
負のオーラが明らかににじみ出ている。
圧し掛かる松沢くんを押し退けながら、一颯くんは不機嫌を返した。
「松沢、それをお前が言うのかよ。」
本命の、あの子と何かあったのかな。
あれ?一颯くんも知っているみたい?
友達だから知っていて当然なのかな。
何というか。一颯くんは知らないのかと思っていた。
『不誠実』だと言っていたから。
「くくっ。篠崎さぁ、俺がいらないことを清水に吹き込んだから。覚悟しておけよ。」
「あ、それを言うなよ。」
二人の様子はいつも通り。
何だか話している内容など気にもならなくて、ただ安心した。
今思えば、そこが重要だったのに。