溺愛の業火

『kissよりも:side和叶』

『kissよりも:side和叶』


放課後。
委員会の作業が早く終わったので、生徒会室に足を運ぶ。

ノックすると、一颯くんの声で返事だけ。
あれ、他の人は帰ったのかな。
誰か居る時は、返事の後でドアが開くはずなのに。

自分でドアを開け、中に居るのが彼だけだと分かって焦りが生じた。
予測はしていたはずなのに。

机に向かって書類を見つめる姿は、逆光で表情が見えない。

「もう少しで終わるから、入って。」

中に入ってドアを閉め、彼の机まで歩を進めた。

「お疲れ様。」

「うん、疲れた。癒して欲しい。」

腰に腕が回って引き寄せられ、私のお腹に額を当ててすり寄せる。
椅子に座った状態で甘えて来るなんて。余程、疲れているのかな。

髪が乱れないように、そっと頭を撫でた。

「ねぇ、俺は『あの時』を思い出すんだけど。君は触れても許してくれるかな。」

それは『あんな事』の続きでしょうか。
許すも何も。こんな学校の生徒会室では、抵抗を感じますけど。

言葉を選んでいるうちに。

「ごめん、忘れて。」

狡い。
強引にしておきながら、そうやって弱さを見せるのだから。


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