VS‐代償‐
「真歩。」
涼が、何度も呼ぶ私の名。
切なさを感じるなんて、思いもしなかった。
目を閉じ気味に、私に近づいてくる。
彼を拒むこともできた。
なのに、5分の制限を気にも留めず。私は願った。
彼の唇を。
触れることを受け入れたいと願ったのに……
【ピピッピピッ】
携帯のアラーム音。
触れる前に、律儀にセットしたのかな。
涼は一瞬、表情を曇らせ。視線を逸らしてアラームを止めた。
涼の視線が戻った時には、私に、いつもの表情を見せた。
それを寂しいと思うなんて。
自分勝手な心に、嫌気がした。吐き気がする。
涼を傷つけながら、私が傷つくことを気にするなんて。
涼は何事もなかったように、ドアへ向かって行き、鍵を開けた。
立ち尽くした私を見ることなく。
声をかけることも出来ない私を置いて、行ってしまうんだ。
ドアから出て、後姿のまま涼は小さな声で言った。
「俺は、早退するね。体調の悪い俺に、付き添っていたことにすればいいよ。」
ドアは、静かに閉じられた。
私は、その場に座り込んでしまう。
力が抜け、冷たい床が、自分の体温を奪っていく。
得ていた温もり受けて。反応した身体が発した熱。涼の触れた感覚。
たった5分。
何を自覚したのか……