VS‐代償‐

触れないけど分かる。息のかかるような近さ。
耳元で囁く小さな声。

「5分。俺だけのもの。俺の真歩。見ないで……だけど感じてほしい。俺を……俺の想い。一方通行の叶わない気持ち。君に沁み込めばいいのに……」

私の体に回る腕が、抱き寄せる。
彼の手は、私の背中に熱を伝え。私は彼の胸に寄り掛かる。

懐かしい匂い。
昔を思い出す。楽しかった思い出。

彼の温もりと香りが、愛しさと切なさとして沁み込んでいく。
零れ続ける涙。

そっと開けた目に、彼の真剣な眼差しを受ける。

【ドクッン】
時が止まったように感じる。

そうか、これは時間制限のある一時。
私たちの想いは、通じ合っているわけじゃない。

5分。私たちに許された時間。
彼が望んだ。私の拒絶に求めたもの。
私が願おうとせずに。勝負に勝っていれば、一生得ることの出来なかったもの。

「真歩……」

愛しき者への愛情を注ぐ。
目を閉じて涼の唇が近づき、私の涙を舐め取った。

熱い舌が私の頬をなぞる。
硬かった身は、緊張と一緒にゆるんでしまった。

腰にあった片手が背中を撫で、もう片手が髪をすき。
彼の触れたかったものを思い知る。

どれほどの時間が経ったのだろう。
涼の体が私から離れた。

涼から得ていた体温が、どれほどだったのか意識する。

彼の手が優しく、私の頬に触れる。
注ぐ視線は熱を帯びながらも、悲しい表情に埋もれるようで心が痛む。


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