VS‐代償‐
苦しい。心が締め付けられるようだ。
相手が結婚しているからと、あきらめるようになんて言えない。
その想いを否定することも、私が言うべきじゃないような気がする。
「告げてしまったんでしょ?出てしまった言葉は、なかったことにはできない。」
「でも、覆すことは出来るわよね?」
それは、サユの事?それとも。
サユは伸びをして、私に微笑む。
「さ、帰るわよ?病床の幼馴染の様子を見に行くのが、出来の良い優等生だと思うけど?」
言った後は、いつもと同じ変わらない意地悪な笑い。
いい度胸じゃない。
なんだか、心が救われたように感じるのはサユのおかげなんだよね。
「ありがとう。」
「何がぁ?くすくすくす……」
サユと分かれ、家に近づくと。
門の前に人影。
涼?何……私、心構えが!!
急に、午前中の出来事が頭を支配した。
戸惑い、歩調の乱れた私に気付いた涼が走り寄る。
「真歩、帰りが遅いし……その、心配していたんだ。」
心配?何を?
グルグルと思考が混ざり、とっさに出たのはいつもと同じ行動パターン。
「何が?涼に、心配される事なんてないわ。私なんか放っておいても、問題ないわよ。」
しかも、涼にも、誰にも見せなかったもの。
心の中で隠していた、私の中に巣食った黒い感情が出てしまった。
口を手で覆うが、それはこの世界に言葉となって存在してしまった。
消すことなど出来ない。
『覆すことは出来る』
「涼、あの……」
「くくっ。そうか……君も、俺に隠していたんだよね。俺を嫌っていること。それでも、仲良くしている振り。それが俺の想いを膨らませて、消せないほどになるまで。……残酷だよ、真歩。」
悲しい眼なのに、表情は冷たく。
切り刻むような痛みが、私を苦しめる。
覆ることなんて不可能。