VS‐代償‐

気持ちが追いつかない。
こんなに自分が不器用だったなんて。

そうだよね。今まで、不器用に生きてきた。
気づくこともなく、涼も……私自身も傷つけて……

零れる涙を拭い、震える手を胸元から退ける。

「次は、負けない。勝って、あなたから解放される。」

「……うん。この5分だけ。俺の勝利の……」

涼の手は、優しくお腹から胸下に移動する。
服の上から。そっと包むように胸に触れた。

身体が反応する。
涼の反対の腕は、私の腰に回り支えるように抱き寄せる。

その肩の服を必死で握り、もう片方の手は、涼の胸元に触れた。
彼の熱が伝わってくる。

愛しい……
この曖昧な、通うことのない想いが身を焦がす。

涼は私の胸元に顔をうずめ、すり寄せるように甘える。

「真歩……柔らかい。もっと望んでしまう。俺は、勝負に勝ちたいわけじゃない。」

え?
視線を向けると、下から見つめ微笑んだ。

【ドキッ】

胸に触れた手は、思い描いたような欲望を表すことは無かった。
その手の温もりが、ずっと留まるのを願うほど……

それも、時間なのかな?
彼は胸から手を離す。

私の視線を捉えたまま。指で唇に優しく触れた。
その手の動きを追うように、目を閉じた涼の顔が近づいて、指の上から。
優しい口づけ。

私は目を閉じることを忘れ、ずっと見つめた。
この唇を、望むような……そんな資格さえないのに。

涙が溢れて零れ。
目を閉じた……


静かな教室に鳴り響く。
制限時間を知らせるアラーム。

触れていた熱が消える。
私に無、以上の虚無を刻み付け。

それは痛み以上の苦しみを募らせて……降り積もる想い……




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