VS‐代償‐
廊下で声をかけられ、振り返る。
見覚えがあるようで、ない。きっと同い年のクラスが違う人。
頬を染め、少し落ち着きが無いように周りを確認した。
「あの、在原に聞いたんだ。」
何を?
涼の名字で、一気に熱が上昇する。
「……付き合っていないって。」
私は、何を募らせてきたんだろう。
叶わぬ想い……
ただ言葉を出せない私を見つめ、彼は言葉を続ける。
「もし、良かったら……俺と、付き合ってください!」
……付き合う?名前も、どんな人かも分からない。
私の知らないところで芽生えた恋心を目の当たりに、心は反応しないのに。
逃げようか……楽になれるかもしれない……
「あの……」
『ごめんなさい』
去って行く男の子の後姿に、涼を重ねる自分がいる。
何て身勝手で冷たくて、最低な想い……
「ひゅぅ~やるじゃん♪モッテモテぇ~~」
角の壁際で、覗くような体勢のまま。
「サユ?いつからいたの……?」
落ちた私を、いつも拾うのは友人なのだろうか。
ニッと笑い、両手を広げるサユ。
サユに言っていない。相談も出来なかった。
あの特別な時間。降り積もった想いをかき分けても、見えない先。
埋もれて身動きもとれない……
「……っ……サユ、サユ……どうすればいい?」
サユは、優しく抱きしめ頭を撫でる。
「バカね。どうして、もっと早く頼らないかなぁ~?可愛い奴だよ、ホント……」