VS‐代償‐

勝敗


テストの結果が出た。

貼り出された上位の一覧。
それは、いつもと変わらない。順位に変化など無い。

思考が止まり、今までとは違う感覚。
まるで自分が、ここにいないような。自分を外観しているような。
慣れない宙を漂うように、不思議な感覚に酔いそうだ。

消えてしまいたい。
私の思いに反して、心は残酷にも自覚した想いを膨らませる。

「真歩約束、守ってくれるよね?」

憎んできた。嫌ってきたはずの人。
その声に、愛しさが込み上げる。

自分の表情なんて、想像も出来ない。
泣きそうなのを我慢していたその感情が。
涼にどう伝わったのかなんて分からない。分かるわけが……

涼の声のする後ろを見るように、顔だけ向けた。
そこには、今までに見たことのない涼の表情。
何を思い、何を考えたのかも記憶に残らない。

顔だけじゃなく、自然に彼と向きあう体。
涼は私を見つめたまま。

「嫌いな俺に、負けたのだから良いよね?俺の好きにしても。5分だけ。勝ったのは俺だから。」

強引に手を引かれ、いつもとは違う歩幅。速度。私を見ない後姿。
彼の背中を見つめ、さっきの表情が何度も何度も繰り返して思い出され、私を支配する。

思考も想いも、私の中に居場所を許さないように。

笑顔ではない真剣な切れ長の目。
うっすらと赤く染まった頬に、言葉を吐き出すように動く唇。
この私の手を掴む、彼の手は熱を伝える。
引いて行く腕は、女の子とは違う力を感じる。

涼。
彼の名を、呼ぼうとしただけなのに。
愛しさが切なく、胸を熱くさせる。

今まで、泣きそうになりながら我慢していた私の目から涙が零れた。

苦しい。なのに、この甘さ。
禁断の甘い果実を連想させる。
これが恋?

恋愛は惚れた方が負け。誰かが言っていた。
最初から勝負に、ならなかったのかもしれない。
最初。それは、どこからなのだろう。
もしかしたら、自覚をしていなかっただけで本当は、もっと前?

勝敗の行方は……




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