VS‐代償‐
自覚?
始業のチャイムが鳴って数分。静まり返った廊下。
普段使われていない別校舎。特別教室の別棟。
使用頻度の多い科学教室や被服室を避け、年に数回しか使われないような一室に入る。
彼の手が私の手を解放した。
涼は私を見ずに通り越し、ドアのカギを掛ける。
涼の後姿。
彼も息が、あがっている?
「りょ!?」
話しかけようとしたが、涼の眼が怖くて言葉を失った。
「はぁ……いい?ね、触れてから5分だよ。触れるまでは、カウントしないで。お願い、真歩……」
これは、誰?
今まで見てきた記憶にある涼じゃない。
身体が震える。
怖い?そうかもしれないけど、逃げたいとは思わない。
動けないのも事実だけど。
身を固め、両腕は胸をガードするように、小さく体を丸めた。
目をギュッと閉じ、彼が触れる瞬間と共感する5分が過ぎるのを願う。
目を閉じていても耳に入る音と、彼の近づいてくる気配を感じ取る。
心音が自分でも分かる。
激しい音と、息詰まるような苦しさ。
息も吸えないような、鼓動。意識がとびそうだ。
「真歩……俺さ、ずっと我慢していたんだ。君は、知らないよね。嫌っていたんだから。同じ想いならきっと、気づいていたはず。今ならわかる。俺の想いなんか、真歩は知らないから近くにいられたんだ。俺の奥深くにあった醜い欲望。そうやって目を閉じて、見ないで居てくれた方がいいのかな。でも……」