規制されてしかるべき私達の

7.少し乱暴なチョコ

 ローファーに()()えて、ざわざわとした罪悪感(ざいあくかん)(かか)えながら玄関(げんかん)を出る。
 そして物陰(ものかげ)(つた)うように歩き、校舎(こうしゃ)から(はな)れて設置(せっち)されているプールへと辿(たど)り着いた。
 ここに到着(とうちゃく)した時点(じてん)で、もうすでに誰とも出会わずに()むだろう。
 数年前に水泳の授業が廃止(はいし)となってからは誰も近づかなくなり、ほとんどの生徒がこの建物がプールなのだということすらも知らないらしいから。
 正面(しょうめん)入り口はもちろん施錠(せじょう)されているので、私は、その裏側(うらがわ)へとまわる。
 学校の健康的な空気からは程遠(ほどとお)い、(よど)んだ湿気(しっけ)()くなっていく。
 ずっと水分を(ふく)んだままの土と、()の光を知らないであろう低木(ていぼく)と雑草。
 じめじめとして、昼間でも薄暗(うすぐら)く、健全(けんぜん)な人達を遠ざける陰気(いんき)な空間。
 その壁面(へきめん)の中ほどにある、アルミ(とびら)のドアノブを(にぎ)る。
 (かぎ)(こわ)れたそのドアノブを引くと、ひんやりとしたカビ臭い空気が外へと()れ出した。
 ここが、去年の秋に見つけた、私の(かく)れ場所だ。
 ちぎれたビート板に、壊れたハードル。ズタボロのボールや、()びたバット。
 廃棄(はいき)同然(どうぜん)の運動器具(きぐ)がひっそりと(ねむ)る、雑多(ざった)な物置と()した(もと)プール用具(ようぐ)倉庫(そうこ)
 誰も()ない、誰も()るわけがない、私だけのセーフティーゾーン。

「おやすみ……」

 そわそわとする胸を落ち着けるように、そう(とな)え、(ほこり)っぽいマットの上に寝転(ねころ)ぶ。
 そして、スマートフォンのアラームを授業が終わる時間にセットし、()ちた器具達に()ざって、現実から目を(つぶ)った。
 倉庫内は静寂(せいじゃく)だった。
 なのに眠ろうとすると、耳は過敏(かびん)になり、遠くから(ひび)(かす)かな音すらも拾ってしまう。
 笛の音。生徒の笑い声。ボールが(はず)む音。私が()げた体育の授業の音。
 罪悪感(ざいあくかん)で、胸が(ざわ)めく。
 湿気と閉塞感(へいそくかん)(あい)まって、やけに息苦しくなってくる。
 やっと誰も来ない安全圏(あんぜんけん)まで逃げ込んだのに、心は、どんどんと安堵(あんど)から(はな)れていく。
 どうして私は、こんなところに隠れて、(なさ)けなく(おび)えているんだろう。
 私は小さい頃からずっと、強く()ろうとして、そう振舞(ふるま)ってきたのに。
 どうして今、こんな私へと(いた)ってしまっているのだろう。
 そんな不安の虫が、()めどなく()いてくる。

「おやすみ……、おやすみ……」

 そんなことを唱えても、眠りに落ちる事なんて、もう出来そうにない。
 もう、駄目(だめ)だ。
 私の手が、スカートのポケットからライターと(はこ)を取り出した。
 この(わずら)わしい思考(しこう)を、早くぼやかさないと()えられない。
 (けむり)(とも)に、胸に巣食(すく)(あく)感情(かんじょう)()き出さないと、もうまともに息が()えない。
 それなのに、何故(なぜ)か、何度やっても火が()いてくれなかった。
 家から適当(てきとう)に持ってきたブランドライターを、(うら)めしく(にぎ)()める。
 このヤスリを回して着火(ちゃっか)するタイプのライターが、私は(ひど)下手(へた)だった。
 紙巻(かみまき)(くわ)えながら、ひりひりと親指を(いた)め、煙なんかを必死に(もと)めている。
 そんな自分があまりに(なさ)けなくて、視界(しかい)(にじ)む。
 仕方なく、かび臭い湿気を、ゆっくりと吸ってみる。
 吐くと、光の中を揺蕩(たゆた)(ほこり)(おど)った。
 (こな)っぽいコンクリート()りの室内に、小さな(まど)から()()(ほそ)い光。
 まるで牢屋(ろうや)みたいだった。

「……ぴったり」

 無声音(むせいおん)自嘲(じちょう)を吐く。
 今の私の心境(しんきょう)に、牢屋はぴったりだ。
 無論(むろん)怠惰(たいだ)(よこ)たわって紫煙(しえん)なんかを(もと)めている私は、(とら)われのお(ひめ)(さま)などではなく、ふて(くさ)れた囚人(しゅうじん)だ。
 それでも、(だれ)(たす)けて、と()いてしまいたい気持ちだった。
 小さな子供みたいに、(わめ)きたかった。
 もう限界(げんかい)。ここから出して。(べつ)世界(せかい)()れてって。
 そう思った時、ふいに光の中の(ほこり)が、妖精(ようせい)(こな)のように(きら)めき()った。
 それを私は、何かの(みちび)きのように感じてしまった。
 なにを非現実(ひげんじつ)な、御伽(おとぎ)(ばなし)みたいなことを。(あたま)ではそうわかっている。
 わかっているのに、鬱気(うっき)()った私の手は、空想(くうそう)(すが)って、アルミ扉を(ひら)いてしまった。

「あ、()たわ。ザドくーん、居たよー」
「まじか、その扉()くのかよ」

 外に出たのは間違(まちが)いだった。
 ()がり(かど)から、四人の男がコソコソと()みを()かべながら、私を見ている。
 その(うち)の三人は見た事があった。
 素行(そこう)の悪さで有名なザドと呼ばれる三年生と、その()()きらしい同級生の二人組。
 もう一人の興味(きょうみ)なさそうに立っている三年生は、よく知らなかった。
 思えば、玄関で(くつ)()()えている時、自動(じどう)販売機(はんばいき)の方に人の気配(けはい)を感じてはいた。
 だけど、後をつけられるだなんて、思いもしなかった。





「お、いいじゃん」

 私の手にライターを見つけたザドが、ポケットからわざとらしく同じ物を取り出した。

「うわ、ザドくんマジで行ったわー、尊敬(そんけい)ー」
「すげぇー、勇敢(ゆうかん)だわー」

 ほとんど(あざけ)りに近い後輩(こうはい)二人からの賛辞(さんじ)に、ザドは一瞬(いっしゅん)顔を(しか)めた。
 それでも、気を取り直したように(あゆ)()ってくる。

「授業中に吸うのが、やっぱ一番美味(うめ)えよな」
美味(うま)い……?」

 これを美味いという感覚(かんかく)が、私にはよくわからなかった。
 煙は(あじ)わっても、煙だ。(にお)いと刺激(しげき)でしかない。
 考えてみれば、これを良いものだと思って堪能(たんのう)したこともなかった。
 ()げるように、(すが)るように吸入(きゅうにゅう)する私からしたら、そもそも味わうような優雅(ゆうが)なものではない。
 思考を、現実を、自分自身を、文字(もじ)(どお)り煙に()いて誤魔化(ごまか)すためのもの。
 多くの意味(いみ)で、まずいものだった。

「ちょっと一緒(いっしょ)に吸おうぜ」
「……私、もう吸い()わったので」

 ()()けるための咄嗟(とっさ)(うそ)
 ()()れない嘘に、心臓(しんぞう)早鐘(はやがね)()つ。

「そりゃそうだろな。だから出てきたんだろうし」
「ザドくんさ、ちゃんと考えてから話しなって」

 嘘は通用(つうよう)したものの、(あき)れたように(わら)う後輩達の言葉に、ザドの表情は強張(こわば)っていく。

「じゃあ、ちょっと一緒に()てくれよ。前から気になっててよ。話してみたかったんだよ」

 (やさ)しげな声音(こわね)(よそお)ってはいるものの、視線(しせん)(さき)辿(たど)れば、その本意(ほんい)明白(めいはく)だった。
 この男が私に(いだ)いているのは、恋愛(れんあい)感情(かんじょう)なんて素敵(すてき)なものじゃない。
 (めずら)しい女を(つか)まえて(みんな)に見せびらかしたい。
 そういう(たぐい)俗物(ぞくぶつ)(きわ)まりない欲望(よくぼう)だ。
 短絡(たんらく)(てき)本能(ほんのう)(てき)なその単純(たんじゅん)思考(しこう)は、嫌悪(けんお)(かん)()()って、一種(いっしゅ)(うらや)ましさすら感じるほどだった。
 宗道(むねみち)先生から(ひる)()けたばかりの忠告(ちゅうこく)が、脳裏(のうり)()ぎる。
 お前は目立(めだ)つ。それだけ、悪意(あくい)ある(やつ)の目にも()きやすい。用心(ようじん)しろ。
 言われて()()く、この事態(じたい)だ。あまりにも無様(ぶざま)で、(すく)えない。
 鬱積(うっせき)していく自己(じこ)嫌悪(けんお)を、(たま)らず地面(じめん)()(こぼ)す。

最悪(さいあく)!」

 私の口は、思っていたよりもずっと(つよ)(こえ)を出してしまった。
 はは! だよな、わかるわ! やっぱザドくんじゃ無理(むり)だ! あはは!
 そんな後輩達の嘲笑(ちょうしょう)に、ザドがムキになってしまったのがわかる。
 直感(ちょっかん)警鐘(けいしょう)()()らす。
 状況(じょうきょう)急速(きゅうそく)悪化(あっか)させてしまった。
 ()()けて()げようとした私の(うで)をザドが(つか)み、()()せようとしてくる。

「おい、本当に、ただ話すだけだからよ、警戒(けいかい)すんなって」

 ザドが乱暴(らんぼう)に私の(かた)へ腕を(まわ)してくる。
 警戒するな、という言葉とは裏腹(うらはら)に、力の()められたその腕は、間違(まちが)いなく私を(おど)していた。
 暑苦(あつくる)しい(ふところ)へと(おさ)え込まれ、後輩達の(ほう)へと無理(むり)やりに(ある)かされる。
 まるで私が、すでに自分の物になったかのように、ザドは自慢(じまん)げな()みを()かべていた。
 (はげ)しい怖気(おぞけ)(とも)に、虫酸(むしず)(はし)る。そして、殺意(さつい)すらも(おぼ)えた。
 (ちから)ずくで()(よう)に出来る。そう思わせてしまっている、(なさ)けない自分自身に(たい)して。

(いや)だ! (さわ)らないでよ!」

 精一杯(せいいっぱい)の力で、身体を()(みだ)す。

「本当に嫌だ! やめてよ! 気持ち(わる)い!」

 必死(ひっし)(あらが)う私の口は、まるで(おさな)い子供の(よう)(さけ)びをあげていた。

「あ? なんだよ、気持ち悪いは()えだろ」

 その余裕(よゆう)そうに()()んでくる(うで)を、()(もの)(ぐる)いで()(ほど)こうとした時、私の(ひじ)がザドの(はな)(いきお)いよく(はじ)いた。
 衝撃(しょうげき)(とも)に、一瞬(いっしゅん)で空気が()わり、(こお)りついていく。
 ザドの顔に()()けられていた(かす)かな()みが、()()せた。

「お前」

 ()()ばすように(かべ)に打ち付けられて、両手(りょうて)(おさ)え込まれてしまう。

調子(ちょうし)()()ぎだろ」

 抑揚(よくよう)の無い(ひく)い声に、見据(みす)えてくる(くら)(ひとみ)
 思考(しこう)()()れず、何をしてくるのかわからなくて、(こわ)かった。
 いつもは(わずら)わしいくらいの(あたま)の中が、停止(ていし)したように()(しろ)になって、動かない。
 どうすればいいか、(まった)くわからない。
 その時、警報(けいほう)(はっ)するかのように、ポケットから電子(でんし)(おん)()(ひび)いた。
 (さき)ほど、(ねむ)ろうとした時にセットしたアラーム。
 そうだ。
 このアラームを電話(でんわ)だと(いつわ)って取り、人を()んだと言えば、こいつらを()(はら)えるかもしれない。
 硬直(こうちょく)した私の(のう)が、(かろ)うじて見出(みいだ)した()(みち)だった。

「電、話……が」
「あ?」
「手、(はな)、て。電話、()

 声が、うまく出せない。私、かなり動揺(どうよう)してるんだ。
 言葉を()()れない私を(さえぎ)って、ザドが口を(ひら)いた。

(あやま)れや」

 耳を(うたが)う言葉だった。

「頭()げて、俺に謝れ」

 (いた)いほど奥歯(おくば)()()めて、(ほね)関節(かんせつ)(きし)むほどの力で、抵抗(ていこう)する。
 だけど、体重を()けて(おさ)えつけてくるザドの()は、微塵(みじん)も動かなかった。

「無理だからよ。さっさと頭下げろや」

 私は、無理やり乱暴(らんぼう)された挙句(あげく)に、(ゆる)しまで()わないといけないの?
 最大(さいだい)(げん)の力を()(しぼ)るものの、(あらが)うほどに、自分の無力(むりょく)さを思い()らされてしまう。
 (くや)しさが()すにつれて、敗北(はいぼく)が近づいてくる。
 (にく)しみと(とも)に、絶望(ぜつぼう)(いろ)()くなっていく。
 弱者(じゃくしゃ)強者(きょうしゃ)屈服(くっぷく)するのが()たり(まえ)。だから、(よわ)いお前が(わる)い。
 そう言わんばかりの目で、ザドは私を(にら)んでいる。
 (かな)しいことに、その目には、()(おぼ)えがあった
 母の(まな)()しを、彷彿(ほうふつ)とさせられてしまった。
 だとすれば、いつか私も強くなったら、同じ目をするようになるのだろうか。
 痛みに愚鈍(ぐどん)になって、(あわ)れな弱者を当然(とうぜん)(ごと)(しいた)げる、動物になっていくのだろうか。
 それがこの()道理(どうり)だと、信じ込んで。
 真理(しんり)なのだと、自他(じた)に言い聞かせながら。

 それなら、私はもう、この世に希望(きぼう)見出(みいだ)せない。
 だから、……。……もういい。

 身体から力と共に、(いか)りが()けていく。
 (くや)しさも、(かな)しさも、よくわからなくなる。
 観念(かんねん)したと思ったのか、ザドがニヤついた()みを(こぼ)す。
 その顔も、もう(にく)らしいとすら感じなかった。
 謝るどころか、もう一声(ひとこえ)(はっ)する気力が無かった。
 心が、どこか(ふか)い所へと(くず)()ちていく。
 感覚が、見えない(まく)(おお)われていく。
 もう(すべ)て、(べつ)世界(せかい)のことのようで、(しず)かだ。
 ただ、(なに)かを警告(けいこく)するようなアラーム音だけが、膜の()こうで()(ひび)(つづ)けていた。

「えっ、何を」

 ふいに、声がした。

「えっ、いったい、何を、え……? ああ⁉」

 その声の主は、ドタドタと地面を()()め、雄叫(おたけ)びながら近づいて来た。

「あおおああ!」

 私を()さえつけていたザドの体勢(たいせい)一気(いっき)(くず)れ、(あつ)みのある(だれ)かが(あいだ)に押し()った。
 (おさ)え込まれていた時とは(ちが)う、(やわ)らかな圧迫(あっぱく)(かん)(つぶ)されそうになる。

「早く走って! ()げるよ!」

 私の手を()いて彼は走り出す。
 
()てコラ、てめえ!」
「うわああ、ちくしょおぉ‼」

 だけど彼はあまり足が早くなく、一瞬(いっしゅん)でザドに()いつかれてしまった。

「ふざけんじゃねえぞ、デブ」

 ザドが彼の(むな)ぐらを(つか)む。
 その瞬間(しゅんかん)反射(はんしゃ)したように彼の(ふと)(ゆび)が、ザドの(えり)肘元(ひじもと)をしっかりと(にぎ)()んだ。
 激昂(げきこう)していたザドの目が、(ひる)む。

「あ……」

 しかし、恐怖(きょうふ)に声を()げ、()硬直(こうちょく)させたのはザドではなく、彼の(ほう)だった。

「……上等(じょうとう)だオラ、来いよ(ぶた)が‼」

 怒鳴(どな)り声を()げて(あば)れ出したザドの(こし)に、彼はしがみ付く。
 そして私を背中(せなか)(かば)ったまま、(なぐ)られながら身体の方向(ほうこう)()えていく。
 彼は、私に()(みち)を作ってくれた。

「早く逃げろお‼」

 彼の気迫(きはく)()され、私の身体は走り出した。安全(あんぜん)場所(ばしょ)へと、一目散(いちもくさん)()けていく。
 本当に私は最低(さいてい)だ。
 ()がり(かど)で、自分の足を無理やり()める。
 ここで一人で逃げたら、本当に私は最低だ。
 ()(かえ)ると、何も抵抗(ていこう)しない彼に、ザドは容赦(ようしゃ)なく暴力(ぼうりょく)()びせ(つづ)けていた。
 (うえ)から(こぶし)()()ろし、(した)から(ひざ)()()げる。
 その(にぶ)打撃(だげき)(おん)が、空気を振動(しんどう)させて、ここまで(ひび)いてくる。
 そのザドの姿(すがた)は、自分を(かろ)んじる後輩達に(たい)しての見せしめも()ねているかのようだった。
 自分を(わら)う後輩達に、強さを顕示(けんじ)するかのように、(ちから)(まか)せに彼を打ちのめしていく。
 懸命(けんめい)にザドにしがみつく彼の背中(せなか)が、段々(だんだん)(よわ)っていくのを感じた。
 彼が(ころ)されてしまう。(あせ)った私は、無意識(むいしき)(さけ)び声をあげた。

「先生! 宗道(むねみち)先生こっち‼ 早くッ‼」

 その叫びは、思っていた以上(いじょう)効力(こうりょく)発揮(はっき)してくれた。

「宗道……? めんどくせえ! おい、行くぞ! 二度と調子(ちょうし)に乗んじゃねえぞ、雑魚(ざこ)がよお!」

 ザド達が走り()っていく足音に安堵(あんど)して、曲がり角から()(もど)る。
 瞬間(しゅんかん)、私の足は硬直(こうちょく)した。

「君、星見(ほしみ)さんでしょ。よく()てる」

 四人の中で、唯一(ゆいいつ)興味(きょうみ)無さそうにしていた三年生が一人、そこに立っていた。
 私が咄嗟(とっさ)に叫んだ(うそ)見抜(みぬ)いたのか、そもそも先生が来る事なんて()にも(かい)していないのか、悠然(ゆうぜん)と立っている。
 そんな得体(えたい)()れない男が自分を知っているのは、(ひど)気味(きみ)(わる)かった。

「星見さんでしょって聞いてるんだけど?」
「……知らない」

 こいつらの()()きの二人は、同級生だった。
 だから、私が星見だということは、すぐにバレるだろう。
 それでも、私の身体は身構(みがま)えて、言葉は抵抗(ていこう)意志(いし)(しめ)した。
 その男は、(わず)かに目元を(ゆが)め、鼻で笑うような息を()くと、私に()()けた。

「お前、今、間違(まちが)えたからね。可哀想(かわいそう)に」

 その言葉の意図(いと)はわからなかったが、背中に怖気(おぞけ)が走り、鳥肌(とりはだ)が立つ。
 歩き去る男の足音が(とお)ざかり、完全(かんぜん)に聞こえなくなってから、私は、ぐったりと(たお)()む彼の(もと)へと走った。

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