世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
篠原がいない夜。
璃子は結衣と千紗と一緒に、駅前のカジュアルな居酒屋で食事をしていた。
三人の間には、普段の明るい会話の端々に、どこか影が落ちている。

結衣がビールを一口飲みながら、ぽつりと言った。
「まさかこの時代に政略結婚する人がいるとはね…しかもそれが私たちの友達なんてさ」

千紗が小皿の枝豆をつまみながら、笑いをこらえつつ言う。
「お話で見る分には、『政略結婚したら旦那様が溺愛してくれました♡』みたいなの、あるじゃん?」

結衣はあっけらかんと、
「ねえ、実際どうなの?本当は?」

璃子は箸を置いて、ため息混じりに答えた。
「全くその気配はない。なしよりのなし、って感じ」

千紗が顔をしかめて、
「うわ、マジか…変に手出されるよりはマシだけど、ほったらかしもきついよね。いる意味ある?みたいな?」

璃子は苦笑いしながら、
「ほんとそれ。存在感ゼロっていうか…私、今のところそこにいるだけの存在みたい」

結衣が頷きながらも真剣な声で言う。
「でも、璃子は強いよ。まだ自分で動けてるし、絶対にこのまま飲み込まれちゃダメだよ」

璃子は目の前のグラスに視線を落とし、決意を新たにした。
「うん。だから、もう逃げるだけじゃなくて、ちゃんと戦わなきゃって思ってる」

千紗が笑顔でグラスを掲げる。
「その意気だよ、璃子!」

三人は笑い合い、微かな明かりの中で小さな連帯感を感じていた。
< 107 / 217 >

この作品をシェア

pagetop