世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
湯気の立つスープを口に運びながら、璃子はぽつりと切り出した。

「……ねえ、湊さん。矢代さんって、どんな人?」

湊は一口ご飯を飲み込み、少し考えるように首を傾けた。

「真面目。律儀。仕事きっちり。あと、見た目がちょっと怖い」

「こ、こわい……?」

「見た目だけね。声低めで無表情っぽいから最初は取っつきにくいかも。でも中身はすごく温厚で、人のことよく見てるタイプだよ」

璃子は少し安心したように、でもまだ半信半疑の表情で箸を置いた。

「大学時代、湊さんとは親しかったの?」

「うん。俺より2つ上で、教職課程も取ってたから学内で顔合わせること多くて。ピアノ科でもかなり実力派だったし、すごく頭の回転が速い。たぶん、今は演奏じゃなくて裏方で力発揮する方が合ってる人だと思う」

「なんか……すごそうだね」
璃子はちょっと肩をすくめながらも、素直にそう言った。

湊は笑って璃子の皿にサラダをよそいながら、静かに続ける。

「ちゃんと矢代さんがついてくれるなら、安心して表に出ていけると思うよ。璃子が無理しなくてすむように、守ってくれるはず」

「……そうだといいな」
璃子は、湊の言葉を噛み締めるように呟く。

「でも一番守るのは俺だから」

ふいに湊が、何気なく、それでも確かにそう言った。

璃子は、手にしていたフォークをそっと置いて、笑った。
どんな強いマネージャーより、その言葉のほうが心強かった。
< 159 / 217 >

この作品をシェア

pagetop