世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
その瞬間、璃子の中にあったものが、すべて音になって消えていった。

静かに手を下ろし、鍵盤から指を離したとき──
彼女の胸に広がっていたのは、誇らしさでも満足でもなく、
ただ、静かで澄んだ“終わり”の感覚だった。

ああ、やりきった。

たった数分のステージに、積み重ねてきた痛みも、努力も、全部置いてきた。
誰にも名前を呼ばれなくていい。
誰にも拍手を求めてない。

けれど、
──私はここにいた。
──私の音は、届いた。

目を閉じ、深く、静かに息を吐く。

舞台の熱と客席の熱がひとつになって、
そのすべてが、璃子の心に沁みていた。

今だけは、自分を許せる気がした。
そして、きっともう一歩、先へ進める──そう思えた。
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