世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
湊の手が、ゆっくりとバスローブの結び目をほどいた。
その音さえも、部屋の空気を震わせるほど静かだった。

「……綺麗だ」

思わずこぼれた湊の言葉に、璃子の頬が熱を帯びる。

視線を逸らそうとするその顔を、湊はそっと引き寄せ、優しく唇を重ねた。

キスは浅く、けれど回数を重ねるごとに熱を帯びていく。
舌先が触れ合ったとき、璃子の身体がわずかに震えた。

「ん……っ……」

その微かな声に、湊の奥底にある理性が、じわりと溶かされていく。

彼は璃子の脚の間に身体を滑らせ、
片手でそっと太腿を抱え上げるようにすると、

触れる場所を変えながら、
彼女の反応を丁寧に確かめていった。

璃子の指先が、シーツをきゅっと握る。

「……やだ、そんなに見ないで……恥ずかしい……」

「見てるだけじゃ足りないんだ」

耳元で囁く声に、璃子の呼吸が跳ねた。
そのまま湊は、彼女の胸元に顔をうずめ、舌先でそっと輪郭をなぞる。

「……っ……ふ……ぁ……」

漏れる声は、もう抑えきれないほどの熱を含んでいた。
身体の奥がじんわりと疼いて、意識の輪郭が滲んでいく。

湊の指が、ゆっくりと、けれど確実に彼女の中心へと触れる。

最初は戸惑いと羞恥が混ざっていた璃子も、
その丁寧な触れ方に、やがてゆっくりと身体を委ねていった。

「璃子……入れるよ……痛かったらすぐ言って」

璃子は、恥ずかしそうに目を伏せたまま、小さく頷いた。

そして――
初めて知る深さへ、ゆっくりと沈んでいく感覚。

「……っ、ぁ……っ……!」

声にならない吐息とともに、璃子の背がわずかに跳ねた。
身体がひとつになった感覚に、ふたりとも数秒だけ、言葉を失う。

「……ごめん、痛い?」

「……ううん……でも、すごく……」

その先の言葉は喉で溶けた。
けれど湊には、それだけで十分だった。

彼はゆっくりと腰を動かしながら、璃子の頬に触れた。

「……気持ちいい?」

璃子は、恥じらいと熱を滲ませながら、小さく答える。

「……うん……すごく……好き……」

その言葉に、湊は一度だけ深く彼女を抱き締め、
そして静かに、深く沈み込んでいった。

ベッドの軋む音と、ふたりの濡れた吐息。
やわらかく揺れる身体の重なりが、時間の感覚を遠ざける。

交わりは、焦らず、丁寧に。
触れ合うたびに、気持ちが伝わっていく。

そして──何度目かの、強く深い動きのあと。

「……っ、んん……湊……!」

璃子の声が、甘く震えて天井に抜けた。
その瞬間、ふたりの熱が溶け合うように、ひとつに昇華していく。

やがて――
高ぶりの余韻だけを残して、ふたりはゆっくりと体を横たえる。

鼓動がまだ早く、互いの呼吸も整いきらない。
けれど、部屋の空気は確かに変わっていた。

目を閉じれば、もう音楽は流れていない。
聞こえるのは、互いの体温と、重なった鼓動のリズムだけ。
< 204 / 217 >

この作品をシェア

pagetop