世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく

舞台袖に戻ると、スマホが震えていた。
画面には、結花と千紗からのメッセージ。

《メリークリスマス！そしてお誕生日おめでとう♡今日のドレス写真、あとで送って！》

《璃子の演奏、会場行けなかったけど、動画見たよ。すっごく綺麗だった。心があったかくなる音だったよ》

メッセージを読んで、ふっと息が漏れた。
心が動いた……わけじゃない。
でも、その言葉の温度だけは、ちゃんと届いた気がした。

“心があったかくなる音だったよ”

私はそんな音を、奏でていたんだろうか。

鏡に映った自分の目が、少しだけ緩んで見えた。ほんの少しだけ。