世界一孤独なピアニストは、恋の調律師に溶けてゆく
ソーイング教室の帰り道、夕暮れの街角を歩きながら、結花がふと璃子の右手に気づいた。

「璃子、最近さ、右手、なんか変じゃない?無意識にかばってる感じするけど…大丈夫?」

璃子は咄嗟に笑顔を作ったけれど、結花の真剣な目を前にしてごまかせない。

「ううん、ちょっと疲れてるだけ。大丈夫だよ。」

千紗も優しく続けた。

「痛いなら、ちゃんと病院行ったほうがいいよ。無理しないで。」

璃子は目を伏せて、小さな声で答えた。

「…行けない。行くとお母さんに絶対ばれちゃうから。」

結花が驚いた。

「えっ?なんで?お母さん、心配してくれそうじゃん?」

「心配じゃないの。怒られるの。『弱い子』って思われるのが怖いの。」

千紗は静かに璃子の肩に手を置く。

「そんなにひとりで背負わなくていいのに。私たちもいるよ。」

璃子は、二人の優しさに胸が熱くなりながらも、決して甘えられない現実をかみしめる。

「ありがとう…でも、これは私が決めることだから。」

それでも、二人の温かな視線が、璃子の孤独をほんの少し和らげてくれていた。
< 50 / 217 >

この作品をシェア

pagetop