過去を捨て、切子の輝きに恋をする
3.
NY出張を一週間後に控えた金曜の夜。
展示会の打ち合わせのあと、真由子と蒼一郎は、工房の近くの喫茶店で遅めの夕食をとっていた。
席は端のカウンター席。
静かなジャズが流れる中で、器の話も、スケジュールの話も出尽くしたあとだった。
「……出張中、少しだけさみしくなりそうです」
真由子が、ふと笑って言った。
「仕事での出張なのに?」
「ええ。でも、なんだか、この数ヶ月で“いつも隣にいる存在”になってたみたいで」
蒼一郎はグラスの水に目を落とし、軽く笑った。
「……僕も、そうかもしれません」
「え?」
「君がいなかったら、この企画も、器も、たぶん今みたいな形にはなってなかった。
でも、それだけじゃなくて……何ていうか、毎週会って話すことが、自分のリズムの一部になってたんです」
真由子は、目を伏せたまま、ゆっくりとグラスを回す。
「……私、思い返すと、ずっと”誰かに必要とされる”ことで自分を保ってたんじゃないかって。
でも、あなたと仕事してて思いました。誰かの役に立たなくても、ただ“隣にいる”って、それだけで意味があるって」
蒼一郎の指先が、グラスから少し浮いた。
「……それは、僕が言おうとしてたことです」
「え?」
「NYに行く前に、言っておきたかった。
君の隣にいることに、理由なんていらないって。いてくれるだけで、ありがたいって思う」
真由子の心臓が、静かに早鐘を打ち始めた。
言葉が、なかなか見つからなかった。
でも――
「……じゃあ、帰ってきたら、もう一度……食事、行きませんか? プライベートで」
「はい」
蒼一郎の返事は、即答だった。
◇◇
外に出ると、夜風が少しだけ冷たかった。
工房の明かりは落ちていて、街は穏やかに眠りの支度をしていた。
ただ静かに、並んで歩くふたり。
けれど、何かが始まりかけていることを感じていた。
もう“ビジネスパートナー”という言葉だけでは、言い表せない想いが、そこにあった。
展示会の打ち合わせのあと、真由子と蒼一郎は、工房の近くの喫茶店で遅めの夕食をとっていた。
席は端のカウンター席。
静かなジャズが流れる中で、器の話も、スケジュールの話も出尽くしたあとだった。
「……出張中、少しだけさみしくなりそうです」
真由子が、ふと笑って言った。
「仕事での出張なのに?」
「ええ。でも、なんだか、この数ヶ月で“いつも隣にいる存在”になってたみたいで」
蒼一郎はグラスの水に目を落とし、軽く笑った。
「……僕も、そうかもしれません」
「え?」
「君がいなかったら、この企画も、器も、たぶん今みたいな形にはなってなかった。
でも、それだけじゃなくて……何ていうか、毎週会って話すことが、自分のリズムの一部になってたんです」
真由子は、目を伏せたまま、ゆっくりとグラスを回す。
「……私、思い返すと、ずっと”誰かに必要とされる”ことで自分を保ってたんじゃないかって。
でも、あなたと仕事してて思いました。誰かの役に立たなくても、ただ“隣にいる”って、それだけで意味があるって」
蒼一郎の指先が、グラスから少し浮いた。
「……それは、僕が言おうとしてたことです」
「え?」
「NYに行く前に、言っておきたかった。
君の隣にいることに、理由なんていらないって。いてくれるだけで、ありがたいって思う」
真由子の心臓が、静かに早鐘を打ち始めた。
言葉が、なかなか見つからなかった。
でも――
「……じゃあ、帰ってきたら、もう一度……食事、行きませんか? プライベートで」
「はい」
蒼一郎の返事は、即答だった。
◇◇
外に出ると、夜風が少しだけ冷たかった。
工房の明かりは落ちていて、街は穏やかに眠りの支度をしていた。
ただ静かに、並んで歩くふたり。
けれど、何かが始まりかけていることを感じていた。
もう“ビジネスパートナー”という言葉だけでは、言い表せない想いが、そこにあった。