月夜の砂漠に紅葉ひとひらⅡ【完】
「先に広場へ行こう。」

ジャラールさんの言葉で、ハーキムさんも歩き出す。

抱き締め合いながら、耳元で何かを言い合っているへサーム王子と奥さん。

昨日のハーキムさんの言葉を思い出す。

『これから起こるだろう悲惨な出来事から、逃げ出したくなる事もある。』

胸が痛い。

私だったら、戦いになんて行ってほしくない。

もし行くのであれば、前の晩はずっと側にいたい。

もしかしたら、最後の夜になるかもしれないのだから。

私は頭を左右に、激しく振った。


「朝から何をやっているのだ、クレハ。」

目の前には、遠くにいたはずのヘサーム王子が立っていた。

「えっ?いつの間に!」

さっきまで中庭の向こう側にいたのに。

その場所を見ると、さっき一緒にいた奥さんまでいなくなっている。

「なにか精霊の使いの儀式か?」

「いえ!違います!えっと……邪念を追い払う方法?」

「邪念?」

うっ!

下手な言い訳だったかな。

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