月夜の砂漠に紅葉ひとひらⅡ【完】
「そっか……」


ときわには言えなかったけれど、ジャラールさんと一緒に見る月夜は幻想的だった。

そのまま時間が止まったみたいに、いつまでもジャラールさんと一緒にいることを感じていた。

ハーキムさんとジャラールが入れ替わって、今度はハーキムさんが、ジャラールさんのお父さんとお母さんの恋愛話を教えてくれた。

それはさながら叙情的で、長い物語を語って聞かせてくれているようだった。

できれば、あの時に戻りたい。


「紅葉。」

「ごめん、ときわ。私、変なんだ。」

「変じゃないよ。」

ときわは、私の手を握ってくれた。

「私、紅葉が眠っている時、ずっと紅葉の側にいた。紅葉、本当に夢の中の出来事を体験してるんだなって思った。だって笑ったり泣いたり、起きてる時と同じなんだもん。」


あれは、本当の出来事。

ジャラールさんに恋したことも。

みんなに会ったことも。


私は寂しくて寂しくて、ときわに抱きつきながら、大声で泣いた。

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