痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 痛みのせいかなんなのか。百合の瞳はうるうると揺れていて、三嶌はその瞳をジッと見つめ返すものの百合の言葉の意味はまだ理解できない。

「終わるのはイヤ……」

「……いろいろ終わらせないとね?」

「合うわけないのはわかってるんですけど……」

「……合う、と思うけど」

「それでも合わなかったら? 終わりですよね?」

「まぁ……」

 合わなければやむ負えず、形成しなおしてまた型取りから再開するしかない……と、三嶌は治療方針を思い返す。それでもよほど合わない訳はないし、接着させる前に咬合も確認する。百合はなにをそんなに不安になっているのだろうと三嶌も首を傾げながら問いかける。

「終わらせたくないの?」

「当たり前です」

「でも好きじゃないでしょ?」

「……どうしてそんなこと言うんですか?」

「最初からそうだった」
 
 あんなに怯えていて何を今さら言うのだと少し呆れて笑ってしまった三嶌に百合はショックを受ける。

「そんな風に、思わせたのは私のせいなんでしょうけど……でも今は分かってもらえてると……」

「いや分かってるよ? そんな簡単に好きになんかならないでしょう。みんなそうだよ?」

「え?」

「無理に好きにならなくていい」

「……」

「失礼しまーす、先生保冷剤です」

「ああ、ありがとう」

 三嶌がチェアーごと動いて百合に背を向けた。保冷剤を持ってきた香苗は三嶌に渡してすぐに診察室を出ようとしたのだが、百合の姿を視界に入れてしまい思わず口を挟む。

「せ、先生……何事ですか!?」

「え?」

 香苗の言葉とその目を見開く視線の先に振り向いた。

「え」

 その先にはぼろぼろと涙をこぼす百合がいた。
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