痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 三嶌と香苗は無駄にその言葉に引っかかり、香苗が「あっ!」と声をあげる。

「なに? 谷くん」

「いや、え? 待って……なんかまた……」

「なに」

 三嶌の声が低い。それに香苗はヒェッ! と心の中で声をあげてしまう。ジトッと無言の圧で見あげられては逃げられるわけもなく。香苗は三嶌の耳元にこしょこしょと囁いた。

「問診の際に、うまく合うといいですね、と……不安そうにされていたので先生は上手だから大丈夫ですよとお伝えしました」

「はぁ……」

 つまり? 三嶌は思う。

「(インレーが)うまく合えばいいね。先生は(型取りも接着も)上手だから……それをまたどこかご自身でそのぉ~?」

「……」

「笹岡様の言ってる好きって……治療のことですかね?」

「……」

 目の前であうあうと泣く百合を見つめて三嶌は吹き出した。

「笹岡様、あのぉ……」

 責任を感じた香苗は誤解を解こうと声をかけたがそれを三嶌の手で遮られる。

「いいよ、わかった。谷くんは業務に戻って」

「す、すみません……」

 申し訳なさげに香苗は頭を下げると後ろ髪惹かれるような思いではあるが三嶌に託すことにする。そのまま診察室を出て行くと室内はただ百合の鼻をすする音だけが響いている。

「先におでこ、冷やそうね?」

「ひゃう!」

 保冷剤を赤く腫れた額に重ねると百合は変な声をあげた。涙と鼻水でどろどろにした顔を三嶌に晒していることに保冷剤の冷たさで我に返り状況を理解した。

「可愛いなぁ」

(……え)
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