痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 三嶌はこんな自分に「可愛い」と優しい眼差しで見つめてくれる。それだけで息が止まりそうになった。

「せんせい……」

「好きって……なにを?」

「え……」

「なんか僕、勘違いしたかも」

「……」

「百合」

 三嶌に初めて名前を呼ばれて、百合の瞳からはまた涙がこぼれ落ちる。

「ねぇ、涙こぼさないで?」

「……」

「この涙も全部、僕のものなんだけど」

「……」

「なにも終わらないよね? だって僕たち始まったところでしょ?」

 始まったのは治療だけじゃない。

「先生……好きです」
 
 真っ直ぐ見つめてくる潤んだ瞳に三嶌は釘付けになる。この吸い込むような透き通る瞳は何なのだろう、この何にも汚れていないような無垢な瞳に見つめられるこの充足感をなんと言葉にすればいいのか。三嶌はそんなことを思いながらも百合の伝えてくれる思いに応える。

「僕も好きだよ」

 そもそも伝わっていると思っていた。もう逃がさない、そう言ったはずなのに。

「合う合わないなんかわからないよね?」

「え……」

「そもそもそんなに他人とうまく合うものなのかな? 僕はそこまで合うなぁと思った人に出会えていないけど」

 なんなら分かってもらえず離れていかれることばかり。自分に合うと思っていた相手が合わなかったなんてことはなにも珍しいことではない。そして、どれだけ思いがあってもすれ違ったり理解し合えないことがあれば最終的には破局に向かうのだから。

「ちゃんと言葉にしないとね?」

「……」

「僕は、百合の口からこぼされる思いをどれもとりこぼしたくないよ」

「……」

 三嶌から告げられる言葉に百合は涙が止まらなくなった。

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