痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 治すことが医師としての三嶌の仕事だ。通院しなくなることが患者にとっても医師にとっても目標である。

「次は……三カ月後に予約しました」

「定期的に診てあげるよ」

 それは心強い、百合は呑気にそう思った。

「ちゃんと歯磨きしなきゃダメだよ?」

「はい……」

「ん、いい子。これ、持って帰って?」

 これ、と渡されたクラフトの紙袋を受け取った百合は不思議そうに中を覗き込む。その中には大量の歯ブラシや歯間ブラシ、フロスにタフトブラシ……歯磨き粉など諸々入っており百合は目をしばたかせた。

「こ、これは……」

「この中から使って」

 有無を言わさぬ言い方に百合はもう「はい」としか頷けない。そうか、三嶌は歯科医師として完璧主義者なのだなと百合はまた呑気に思う。通院が終わってもケアの心配をして患者のことを考える人なのか、そんなことを胸の奥で感じてじーんとしている百合がいる。
 当然三嶌がここまでするのはどの患者にも、なわけがない。百合にしかしない、むしろ百合にだからする。ただ単に自分の管理するもので暮らさせたいだけである。まずは口腔内、百合がケアを手荒にするとは思ってはいないが適当にさせるつもりはない。今はまだ生活すべてを管理できない以上出来ることをしたいだけである。そんな三嶌の邪で自己中な気持ちにはまるで気づかぬ百合は笑顔でそれにお礼を言うのだった。

「ありがとうございます! これでしっかり歯磨きして虫歯ゼロ生活を続けます!」

「そうしようね?」

 そこにまた頭よしよし……百合はそれだけで溶けそうなほど幸せを感じていた。

「それより今度のお休みだけど……」
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