痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 日曜日。
 百合はいろいろ荷物を持って三嶌の住むマンション前で仁王立ちしている。

(つ、ついに……先生のご自宅に!)

 百合は未だに信じられないのである。三嶌がどうしてもリアリティのある三次元の人間とは思えないのだ。出会った時から医師だった。”先生”と呼ぶ人はどうしてか特別な人に感じる。子供の時からずっと……学校でも先生と呼ぶ人は普通の大人とは違って見えた。世の中に先生と呼ばれる職種の人間はたくさんいるが中でも医師はまた特別である。痛みや不安、ストレスを取り払ってくれる魔法の手を持っている。なんせ命まで救うのだから!

 そんな相手とまさか思いが通じ合って心通わせることになれた。自分の隠したかったほどの気持ちを受け止めてもらえたのだ。それこそが夢の様なのだ。だからより思う。

 これは自分が見ている夢や妄想ではないのか?

 通院が終わったら、歯の治療が終わったら、痛みがなくなれば……その痛みと同時に消えてなくならないか。

 このまま夢から覚めるのでは……そんな不安が漠然とあった。

 痛みが苦手だった。痛いことは嫌だ、そう思っていたのに。

 百合は三嶌を想うほど、自分の中に刻み付けられるような痛みをどこか欲するようになっていた。
< 120 / 146 >

この作品をシェア

pagetop