痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 想像力だけが逞しい百合なのだ。初めての診察の時からそうだった。三嶌の言葉に変な勘違いを初めてひとり暴走を始めた。そんな百合だから興味を持たれたのだが、それはまだ百合の知らない話である。

 食べたいもの……その言葉の意味と会話の流れで当然百合は妄想スイッチをオンにする。

「今日は僕のメイドさんだっけ?」

「あ、は、はい……」

 メイドとは? 百合自身が問いかける。自分の言った言葉にもちろん記憶はあるものの、メイドという響きになにも知らないというほど子供でもない。

「あ、あの……先生?」

「このエプロン姿……可愛いね」

「は、はい……」

 さらりと髪の毛をかき分けられて首筋に三嶌の長い指が触れてくる。指先が鎖骨に触れてピクリと百合の体が揺れた。

「んっ」

「ごめん、嫌だった?」

 謝られて思いっきり首を左右に振った。触れられて嫌なことなどひとつもない。初めて、口の中に触れられた時から不快に思ったことはないのだ。

「先生にされて、嫌なことなんか……ないです」

 見つめながら百合がそんな言葉を吐くので三嶌の胸はぎゅうっと締め付けられた。この無防備さが、どこまでを悟って告げてくるのか。百合の脳内は一体どうなっているんだ。その見えない領域により三嶌は興奮する。暴きたくなる、なんでも知りたい、そう思うのだ。

「百合……」

 三嶌の顔が近づいてくる。息がかかるほどの距離感。室内から感じたシトラスの香りとは別に甘い爽やかな香りが百合の鼻をかすめる。この匂いが好きだと、百合は直感的に思った。病院では一切感じなかった初めての三嶌の香りに胸が震える。

「ぁ……」

「ん? なに?」

 こぼれ落ちる百合の声を三嶌が拾い上げる。
 抱きしめられて頬に口づけられながら囁かれるとどうしたって胸の震えを止められない。それに困る百合がいた。
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