痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 病院の奥の方から微かに機械音が聞こえる。全くもって心地よい音ではない。百合からしたら包丁を研ぐ山姥でもいるのではないかと思うほどだ。

「聞こえてないかな。ところでどうされました?」

 いきなり聞かれて百合はためらった。言えばこのイケメンヤブ医者が自分の口腔内状況を知ってしまうことになる。そうすればもう逃げられなくならないか? 百合はまだ逃げることしか考えていなかった。

「えっとぉ……その……」

「お痛みですか? 初診? 診察でいいんですよね?」

 矢継ぎ早に聞かれて百合の方が息を吞む。

(まずい、なんか問診ありきの手続きモードに入りだしている!!)

 八割固めた気持ちが抵抗するもののイケメンヤブ医者は遠慮もなく攻めてくるではないか。

(必死だ! やっぱり人気がないから患者を取り入れようと必死になってる! もうこのヤブ医者に入れ歯にされる!!)

 百合の被害妄想が爆発しかけたとき、耳に新たな声が届いた。

(あさひ)ー、これマージンが取れにくいし、形成やり直した方がよくない? ……患者さん?」

 奥からネイビーの白衣を着た新たなヤブ医者が現れた、と百合はまた青ざめた。
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