痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 まずは……一体なにをされるのか。

 わなわなと震えだした百合のくちびるに三嶌の指が触れた。下唇にラテックスグローブごしの人差し指でふにっと押し付けられる。

「中、見せて?」

「!!」

 覗きこむよりも近い。覆いかぶさるように三嶌が百合の顔に迫っていた。

 百合は息をするのも忘れて固まった。椅子を倒されて、上からかぶさるように見つめられて今からなんの診察が始まるのか。百合の脳内はもはや誇大妄想を始めていた。

「はい、あーん」

 三嶌の甘い声に誘われるように百合は自然と口を開けた。

「ぁ、あー……」

まるで催眠術にかかったように素直に体が反応した。

「ん、いい子」

 ニコッとまた三嶌が笑う。マスクをしていてかっこいいのにこれを外した笑顔は一体どれほどの殺傷レベルを持っているんだろうか。百合は瞬きするのも忘れて三嶌の瞳に釘付けになっていた。

(まつげが長い、少し色素が薄めで茶色よりはグレーっぽい……目じりの下に小さなほくろ……)

「触っていい?」

 くちびるを抑えていた指の力が弱まって少し楽になると、甘い声が囁くようにそう聞いてくる。

「へ、あ、え……ど、どこを?」

「……」

 至近距離で観察していた三嶌の瞳が印象的過ぎて百合はまだ三次元の世界に帰ってこれていない。問われる三嶌の言葉に返す百合の返答はすっとぼけたものばかり。

 もう一度言うが百合は今、歯科医院で歯の治療を行っている。百合だけがどこで何をしに来ているのか忘れてしまっているのか、そんな百合に三嶌はにこりと微笑んで言うのだ。

「奥……痛くしないから」
< 23 / 146 >

この作品をシェア

pagetop