痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 ――奥……痛くしないから。

「お、おくぅ!」

(はぁぁぁ、なに三嶌先生の声なに、や、やらしぃ――!!)

 百合は完全におかしくなっていた。

「しっかり見せて? もう一度、あーん」

 もはや言いなりだった。

 三嶌の声に、言葉に百合は翻弄されていた。言われるがまま口を開けてしまって指の侵入を許してしまう。

「ここ、痛かったね? 結構腫れてるなぁ……我慢してた?」

 右下の奥歯を三嶌の指が優しく押してくる。痛みは全くなかった。押すというより触れるような軽いタッチ。百合は自然と目を閉じた。そうなったのは恐怖心が消えてしまったからだ。

 大人の男性の手はもっと大きくてごつごつしていそうなのに、三嶌の手からはそんないかつさは全く感じなかった。ただ指はとても長いのではないか、と百合は口の中で感じる気持ちからそう想像していた。

「一度席戻すのでお口ゆすいでください」

 椅子がぶるっと震えたと思ったら徐々に頭から持ち上がるように体勢が座る位置に戻った。百合の頭は少しボーっとしていて、放心状態に近い。

(なんか、全然嫌な気持ちはなかった……)

「口、ゆすいでくださいね」

 三嶌の優しい声の催眠は未だに続いている。言われるまま口を数回ゆすいだ。白い陶器の流し口から水がシャーッと弧をかくように流れていく様をぼんやりと見つめていた。
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