痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 百合が見上げてきた瞳に吸い込まれるようだった。

 ――そんな思いやった優しい言葉言ってくれる先生、はじめて……。

 どうしてか。

 ”優しさ”とはなにか、自分がここ数年患者に投げてきた言葉たちにどれだけの感情が含まれていただろうかと。

「……」

 思いやる気持ち、医師になったときは思っていた。

 どんな患者にも心から寄り添って、自分にと頼ってもらえるような医師を目指そうと。

「……席、戻しますね。お口軽くゆすいでください」

 倒れたチェアーが起き上がり、百合が自分に向かって近づいてくるようで……それを静かに見つめる三嶌は思っていた。

(……このままこの椅子に縛り付けたい)

 忘れていた気持ちと共に湧き上がる様な気持ち、衝動的ともいえる。欲望のようなものが溢れて……興奮した。


「谷くん」

「はい」

「右下インレーの型取り、お願いできる?」

「はい」

「笹岡さん」

 三嶌が百合の名を呼ぶ。それに素直に振り向いた百合に三嶌は顔を無駄に寄せて耳元に囁くように言った。

「これから笹岡さんの中に嵌める金属の型取りをします。痛いことはないけどちょっとだけ苦しいかも。少しだけ頑張ろうね?」

「……は、はい」

 百合は真っ赤になって頷いた。
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