痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 安定の心の中でだが、香苗は三嶌に対して暴言を吐きまくってしまう。しかし香苗も感じた気持ちはある、百合に対しては好感度しか今のところないのだ。そして――。

「たしかに可愛かったです。先生の気持ちもわからなくはないです」

「思いやった……だって」

「え?」

「いや? なんか直球で言われるとくすぐられたよね」

「……先生」

 蛇口から流れる水を止めた三嶌が、ペーパーで手を拭く。その姿を黙って見つめていた香苗だが無駄に胸がドキドキし始める。
 静かにたたずむ三嶌の横顔は、今まで見たことのないほど高揚したように見えたからだ。

(ええ……先生本気?)

「でも、だからって面白がって弄ぶのはどうかと思いましたけど……あんな地味で大人しそうな子に罪じゃないですか?」

「地味?」

「え、そんな派手な感じの子じゃない……」

「谷くん、ちゃんと顔見た?」

 え、と香苗は瞳を丸くした。そう聞いてくる三嶌の表情は遊びとは思えないほど真剣で確信的な自信を持っている。

「あの子、メガネとモサッとした感じで誤魔化されてるけどなかなかの原石だと思うな」

「え」

「かわいい」

「!」

 本気なのだ、と香苗は思う。

 中身だけでもないのか、三嶌は百合本体にもちゃんと魅力を感じて本気で百合に好意を抱いているとわかる。

 そして――手懐けるつもりだ。

 おそらく百合ももう時間の問題で落ちるだろう。傍で見ていた香苗にもそれはわかった。

 この三年、患者に手は出さないと貫いてきていたはずの院長がそんなポリシーをあっさりと打ち砕いてしまったのだ。

 それが三嶌の気持ちの本気を物語っていると香苗は悟ったのだった。
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