痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 ――申し訳ありません。

 もはや言い慣れすぎて感情など込めずとも淡々と謝ることが出来る。でもそれは本当に謝罪なのかと自分を疑ってしまうほど。

 その場をやり過ごすための言葉、マニュアルの様な言葉に自分が嫌になった。そしてその言葉を求められているとはいえ、喜んで発したい言葉でもない。

 ――ありがとうございます。

 三嶌に告げた自分の声が脳裏に響いた。

 怒られて、責められて……人に感謝された記憶はここ最近ひとつもない。謝るばかりの自分、そんな自分に優しく寄り添ってくれた三嶌の声はどれも優しくて胸が自然と綻んでいた。

 人に感謝される先生はすごい。
 痛みや不安を取り除ける三嶌を百合は心から尊敬した。

 歯の痛みで開けた扉、けれど今和らいだはずの痛みは新たに胸に響きだす。

(なんだろう……ずっと、胸が痛い)

 気づく痛み、この痛みの正体に気付いて気付かない振りをする自分にまた胸を痛める。

(考えるのやめ! 今は仕事!) 

 頭を激しく左右に振って、邪心を捨てた。処方されている痛み止めを飲もう、そう思ってポーチから痛み止めを出したら手を滑らせてうっかり洗面の排水溝に落としてしまって絶望する。

(……最悪)

 あと薬は一錠のみ。しかもその一錠は家に置いてきている。
 この痛みを抱えたまま定時まで仕事を続けないといけないと思うだけで余計に痛みを感じるのだった。
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