痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 心臓はもう尋常ではない動きをしていて、それに百合自身が対応できそうにない。

(バクバクしすぎて死ぬ!)

「中、どうぞ?」

 三嶌に手招きされて百合は思わず声を荒げた。

「あ、あ、あの! とと突然すみません! くく、くすり、薬がもうなくなりそうでっ!」

 ただそれだけでぇ! と、尻込みしかける百合に三嶌と桃瀬は視線を合わせて一瞬戸惑う。明らかな挙動不審、これが香苗の言う”ちょっと変”かと桃瀬は思うのだが。

(いや、かなり変)

 冷静に見つめる桃瀬だ。

「桃瀬くん、もう奥入れるから導入して」

「はぁい、笹岡様どうぞ~」

 どんどん診察のムードになる。靴を脱いだら最後だ、逃げるならこの待合に留まるしかない、百合は必死で抵抗しようとした。

 痛みも腫れもちろんあるけれどそれ以上に自分の心臓が持たない気がして百合はなおさら帰りたくなった。

 自分を今悩ましている痛みよりもひどい痛みをこれから伴いそうな気がしてならないからだ。

「あのぉ! 私、お薬もらいに来ただけなので、その……」

 逃げようとする百合を三嶌がジッと見つめる。その視線に気づくものの直視していられず百合が戸惑いつつも逸らそうとする。その逸らそうとする百合に三嶌の胸中はザワッとして声をあげた。

「帰さない」

「えええ!」

(ふわぁぁ! かか、帰さないってリアルで聞くことあると思わなかったぁ!!)

 イケメンに「今夜は帰さない」そんなセリフを吐かれる漫画など飽きるほど読んできた百合には直球で刺さる。顔を真っ赤にしてワナワナと震え出す百合に三嶌は続けて言った。

「大丈夫、痛いの取ってあげるからおいで」

 三嶌の「大丈夫」に百合は瞬殺された。

 あの聞きたくて恋しくなっていた言葉をいきなり言われて心臓が跳ね上がった。しかもついでに甘い声で「おいで」までついてくる。

(む、無理ぃ)

 百合はその場に腰を抜かしてしまった。
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