痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 声をあげて笑う三嶌、怖い……桃瀬は違う意味で震える。

「せ、先生……笑ってないでなんとかしてくださいよ」

「ふふふ……ははは」

(だから笑ってんと……)

 三嶌が狂ったように見えて恐怖と同時に苛ついてくる。
 そんな桃瀬にしがみつく百合は目の前の状況などお構いなしに声を荒げ続けた。

「だ、だめです、私まともじゃない。し、心身状態がまともじゃないです、ごめんなさい。脈拍とかおかしいってわかるし、こんな状態で歯を抜いたらきっと血も止まらない気がして、し、死ぬんじゃないかなって。死ぬと思います」

「いや、死なないでしょ? 笹岡様なに言ってるんですか?」

 桃瀬が百合の言葉に引き始める。

「ここで死んだらみなさんに迷惑もかけるし、きゅ、救急車? 呼ばれたら困りますよね? 病院の評判まで落として……私、死にきれません……」

「笹岡様ぁ!? とりあえず落ち着きましょうか! ね!」

「まだ死にたくないとかじゃなくてここで死にたくないというか……いやでももうこんな非現実な世界で死ねるのはむしろ幸せなのかもしれないんですけど」

「笹岡様ー!」

「でも先生に人殺しの罪はきせたくないし、先生がそれでもし逮捕されたりしたらどうしようって……」

「死んでないし殺してないし! 笹岡様! ちょっとだいぶ話が見えないんですけど! とりあえず戻ってきてもらっていいですかぁ!?」

 百合の暴走に初めて触れた桃瀬は想定外すぎてはっきりいってお手上げになってきた。全くこちらの声が届いていないような気がする。しかも話はどんどん死を受け入れつつあってどうしたものかと思う。

「せ、せんせー! 無理! 私には無理ですー!」

 白旗を揚げた桃瀬の背後から腕が伸びてきた、と思ったら百合の顎がぐっと掴まれ親指が唇にふれた。
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