痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
「百合ちゃんは私にとっては妹みたいな可愛い存在なんです」

 これが医師である自分への信頼なのか。
 ひとりの患者が、別の患者の話をさも自然とこぼしてしまうのだから。

「そうなんですね。川澄さんのご紹介だったんですか」

「はい。もう職場で泣いて大変で……絶対大丈夫って太鼓判を押せる先生にってお勧めしてなんとか」

「そうでしたか。それは嬉しいな」

 ニコリと微笑む三嶌に、冴子は自分のした行動が間違いではなかったと自信を持つ。そしてそれがまた気持ちの紐を緩めるのだ。

 百合とは職場の先輩後輩であること。
 歯医者がというより病院全般が苦手であること。
 インドアで本を読んだりが趣味なこと。甘いものも大好きだと。
 人付き合いは苦手で職場の飲み会なんかもほぼ参加しない引っ込み思案な性格だ……などと話を聞いただけで百合の性格と生活が手に取るようにわかって三嶌は胸をホクホクさせていた。

「怖いだろうに健気に診療に向き合って偉かったです。とても可愛らしい人ですね」

 そう伝えたら冴子はホッとしたように微笑み、良かったと安堵した。

「今まで彼氏がいなくて男性に対しても免疫がないし少し抵抗もあるようで心配していたんです。先生は優しいし紳士だから大丈夫だよって勧めて本当に良かった!」

 そう悪気もなくペラペラと百合のプライベートをこぼしてしまう。

 ニコッと微笑むだけで相手は自分を疑うこともなく信用してたくさん個人情報を落として帰っていった。

 三嶌はその日どの処置よりも手応えを感じて診察を終了したのだった。
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