痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
「気持ちを待とうと思っていたけど、僕の方が待てなくなった」

 百合は患者だ。

 しかも歯医者を怖がって、とても怯えていた。

 まだ三嶌本人を見つめるほどの余裕は持っていないだろう、そう思っていたから治療経過を見つつゆっくりと百合の脳内に自分を侵食させていけばいいと思っていた。

 言ったセリフは本音だった。

 待つつもりだった。

 百合が抜歯を覚悟出来た時……それはきっと三嶌自身を受け入れたときだろうと思っていたから。


「死ぬ覚悟があるくらいなら大丈夫、僕が全部受け止めて今抱えている痛みを全部取ってあげる。覚悟を決めようか?」

 百合はその言葉に目を見開いて三嶌を真っ直ぐ見つめてきた。

 その純粋で何も疑うことのないような無垢な瞳を真っ直ぐに……そしてなんとも可愛いピンク色に頬を染めて頷いたのだ。

 この時、三嶌は決めた。覚悟を決めた百合に自分も覚悟を決めようと。

(この子を、絶対に逃がさない。もう絶対に、自分の手から離さない)

 三嶌の覚悟は犯罪者になる覚悟だったが百合がそれを知るわけがない。

 知らない方が幸せなこと、それは確かにあるのだから……。
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