痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 三嶌はかつてないほど興奮していた。幼い子供が初めて宝物を見つけた様な高揚感である。

 人に対してここまでワクワクと胸踊らせて溢れ出そうなほどのドキドキを抱いたことなどない。この気持ちをなんとか落ち着けないと仕事にならない……それほど胸を高鳴らせていると院長室の電話が鳴った。

『旭先生からお電話でーす』

 桃瀬から引き継がれた電話口で旭が軽い口調で話しかけてきた。

『センセー、お疲れ様です。今大丈夫ですかぁ?』

「うん……大丈夫」

『今度の学会のことなんっすけどねー……』

 旭が要件を伝えているものの三嶌の耳には大して入ってはきそうにない。三嶌の脳内はずっと涎を垂らした放心状態の百合が住み続けている。

『センセー、聞いてます?』

「ごめん、聞いてない」

『はっきり言いすぎじゃないですか? なんかありました? 声がちょっとテンション高いですね』

 気の利く後輩は割と目ざとい性格で、それでもそれほど分かりやすかったのだろう。三嶌の声のトーンがいつもと違うと。

「旭……僕はもう鎖は捨てる」

『は?』

「鎖や首輪なんか愛じゃなかった……僕が間違ってたよ」

『大丈夫っすか? 証拠残さないものにするとか言わないでくださいね!?』

「そうだな……目に見えない、形になんか残らないものが本物なのかもしれない……」

『はい、怖いっす! 薬学科に友達いるとか言ってましたよね!? ダメですよ! 薬とかはマジでダメですよ!』

「旭、ごめん。もう切るね?」

『俺の要件、一個も聞いてくれてないですよねー!? せんせっ……ブチッ!

 三嶌はもう百合のことで頭がいっぱいだった。
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