痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 撫でてくれるその手の温かさに百合の胸はまた躍る様に跳ね上がっていた。

(ふわぁぁぁー! やばいやばいやばい、頭よしよしやばい! これ動画とかに撮って欲しい! 寝る前とかに毎日見て明日への活力にしたい! 防犯カメラとかないのかな、データくださいとか言ったら引かれるかな……)

 間違いなく引かれる案件だが暴走しかけている百合は病院内をキョロキョロ探してしまっていた。

「少しは歯医者怖いのなくなった?」

 三嶌の問いかけに百合はハッとして声の方に振り返り、聞かれた言葉を心の中で反芻させた。

(歯医者は……怖い、けど……)

 三嶌が優しい瞳で見つめてくる。その瞳に吸い込まれるように自然と言葉が落ちた。

「こわい……です。でも、先生だから、怖くない」

 三嶌の目力はまるで麻酔のように効力がある。全身が鈍く動いてだんだん身動きが取れなくなる。感覚が徐々になくなって自分の意思を失くしてしまうようだ。

 ピッと機械音が鳴ったと思ったら椅子がいきなりまた動いた。

「え!」

 驚いた百合は悲鳴のように声をあげた。
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