君と紡いだ奇跡の半年


 ついにコンテスト当日——。

 ライブハウスの入り口に立った瞬間、俺たちは無言になった。

 真新しいポスターには『新人バンドコンテスト決勝』と大きく書かれている。

 ステージに立つのは、俺たちを含めて全10組。

「やべぇ、緊張してきた……」

 真が肩を回しながら苦笑いする。

「私も、ちょっとお腹痛いかも……」

 紗希が小声で呟く。

 俺は二人を見て、ゆっくりと深呼吸した。

「大丈夫。俺たち、今までで一番練習してきた。あとは楽しもう」

 そう言うと、真と紗希も頷いた。

「……ああ、そうだな」

「うん。湊と一緒なら、大丈夫!」

 受付を済ませ、控室へ入ると、他のバンドメンバーたちの緊張感が伝わってくる。

 プロを目指しているようなガチ勢も多く、空気はピリついていた。

「湊……みんな上手そうだね……」

 紗希が小声で不安を漏らす。

「でも俺たちも、俺たちの音を出すだけだ」

 そう答えながら、自分にも言い聞かせる。

 この中で一番限られた時間を持つのは——俺だ。

(だからこそ、後悔は絶対にしたくない)



 リハーサルが始まり、次々と他のバンドがステージに立っていく。

 圧倒的なテクニックを披露するバンドもいれば、観客を煽って盛り上げるバンドもいる。

「次、2年B組・FIRE FLAMEさん、どうぞ」

 名前を呼ばれ、俺たちはステージへと歩き出した。

 ライトが眩しく、客席が霞んで見える。

「よし、いつも通りだ」

 真がベースを肩にかけ、紗希がキーボードの前に座る。

 俺はギターを構え、深呼吸する。

「いくぞ——」

 カウントを取り、イントロが始まる。

 真のベース、紗希のキーボード、俺のギターが重なり、音が会場に広がっていく。

『たとえ終わりが来たとしても
 僕らの描いたこの景色は消えない』

 歌い出すと、不思議なほど緊張は消えていった。

 紗希のコーラスが優しく重なり、真のベースが支える。

 曲はクライマックスへと進んでいく。

(今、この瞬間だけは……永遠だ)

 ラストのコードを鳴らし終えると、客席から大きな拍手が湧き起こった。

 心臓が高鳴る。

「……ありがとう!」

 マイクに向かって叫ぶと、さらに歓声が大きくなった。

 舞台袖に戻ると、三人で思わず顔を見合わせた。

「……出し切ったな」

 真がポツリと言い、紗希も涙ぐみながら笑った。

「うん……すっごく楽しかった!」

「俺も……ありがとう、二人とも」

 ステージの緊張感から解き放たれて、心からそう思った。

(どんな結果でもいい——今日のこの時間は、俺たちの宝物だ)



 その後、全バンドの演奏が終わり、表彰式が始まった。

 審査員が名前を読み上げるたびに、会場の空気が張り詰めていく。

『準グランプリ……FIRE FLAME!』

「——!」

 一瞬、耳を疑った。

「やった……!!!」

 紗希が飛び跳ね、真が拳を突き上げた。

 俺たちは壇上に呼ばれ、賞状とトロフィーを受け取った。

 ライトが眩しくて、自然と目頭が熱くなった。

(本当に……ここまで来れたんだ)

 歓声と拍手が、今でも胸の奥に響いている——。
< 9 / 24 >

この作品をシェア

pagetop