君と紡いだ奇跡の半年
ついにコンテスト当日——。
ライブハウスの入り口に立った瞬間、俺たちは無言になった。
真新しいポスターには『新人バンドコンテスト決勝』と大きく書かれている。
ステージに立つのは、俺たちを含めて全10組。
「やべぇ、緊張してきた……」
真が肩を回しながら苦笑いする。
「私も、ちょっとお腹痛いかも……」
紗希が小声で呟く。
俺は二人を見て、ゆっくりと深呼吸した。
「大丈夫。俺たち、今までで一番練習してきた。あとは楽しもう」
そう言うと、真と紗希も頷いた。
「……ああ、そうだな」
「うん。湊と一緒なら、大丈夫!」
受付を済ませ、控室へ入ると、他のバンドメンバーたちの緊張感が伝わってくる。
プロを目指しているようなガチ勢も多く、空気はピリついていた。
「湊……みんな上手そうだね……」
紗希が小声で不安を漏らす。
「でも俺たちも、俺たちの音を出すだけだ」
そう答えながら、自分にも言い聞かせる。
この中で一番限られた時間を持つのは——俺だ。
(だからこそ、後悔は絶対にしたくない)
*
リハーサルが始まり、次々と他のバンドがステージに立っていく。
圧倒的なテクニックを披露するバンドもいれば、観客を煽って盛り上げるバンドもいる。
「次、2年B組・FIRE FLAMEさん、どうぞ」
名前を呼ばれ、俺たちはステージへと歩き出した。
ライトが眩しく、客席が霞んで見える。
「よし、いつも通りだ」
真がベースを肩にかけ、紗希がキーボードの前に座る。
俺はギターを構え、深呼吸する。
「いくぞ——」
カウントを取り、イントロが始まる。
真のベース、紗希のキーボード、俺のギターが重なり、音が会場に広がっていく。
『たとえ終わりが来たとしても
僕らの描いたこの景色は消えない』
歌い出すと、不思議なほど緊張は消えていった。
紗希のコーラスが優しく重なり、真のベースが支える。
曲はクライマックスへと進んでいく。
(今、この瞬間だけは……永遠だ)
ラストのコードを鳴らし終えると、客席から大きな拍手が湧き起こった。
心臓が高鳴る。
「……ありがとう!」
マイクに向かって叫ぶと、さらに歓声が大きくなった。
舞台袖に戻ると、三人で思わず顔を見合わせた。
「……出し切ったな」
真がポツリと言い、紗希も涙ぐみながら笑った。
「うん……すっごく楽しかった!」
「俺も……ありがとう、二人とも」
ステージの緊張感から解き放たれて、心からそう思った。
(どんな結果でもいい——今日のこの時間は、俺たちの宝物だ)
*
その後、全バンドの演奏が終わり、表彰式が始まった。
審査員が名前を読み上げるたびに、会場の空気が張り詰めていく。
『準グランプリ……FIRE FLAME!』
「——!」
一瞬、耳を疑った。
「やった……!!!」
紗希が飛び跳ね、真が拳を突き上げた。
俺たちは壇上に呼ばれ、賞状とトロフィーを受け取った。
ライトが眩しくて、自然と目頭が熱くなった。
(本当に……ここまで来れたんだ)
歓声と拍手が、今でも胸の奥に響いている——。