君と紡いだ奇跡の半年
——目が覚めた時、世界は静かだった。

 天井の白い光。聞き慣れた病院の匂い。

(……え? なんで俺、病院に——)

 頭が混乱していた。

 さっきまで俺は事故に遭ったはずだ。交差点、眩しいライト、トラック——あの強烈な衝撃をはっきり覚えている。

 なのに——何事もなかったかのように目覚めていた。

 そこへ、母さんと父さんが駆け寄ってきた。

「湊! よかった……!」

 母さんが泣きそうな笑顔で手を握ってくる。

「……え? 俺、事故……じゃなかったの?」

「事故? 何言ってるの? 湊、倒れただけよ……」

(倒れた? いや、違うだろ……俺は——)

 自分の記憶と今の現実が食い違っていく。

 まるで頭の奥で歯車が噛み合わなくなる感覚だった。

(おかしい……何かがおかしい……)

 そこへ医者が現れた。

「湊くん……検査の結果、脳に腫瘍が見つかりました」

 その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 このセリフを、俺はすでに知っていた。

 まったく同じ流れ、まったく同じ空気、母さんの嗚咽まで——すべてがデジャヴのように重なっていた。

「……余命は半年ほどでしょう」

(——嘘だろ……これ、前に聞いたぞ?)

 恐怖よりも、異様な違和感のほうが強かった。

(まさか……俺は、時間を——)

 信じられない仮説が頭の中に浮かんだ。

(……戻ってきた?)

 脈打つ心臓の音だけが、やけに鮮明に響いていた——。




 ——まただ。



 まったく同じ展開だ。

 カルテをめくる医師の動きも、母さんが小さく息を飲む様子も、すべてが以前とまったく同じに見えた。

「進行はゆっくりですが、場所が悪く……」

 続く説明も同じだった。

「……余命は半年ほどでしょう」

 その言葉に、母さんが嗚咽を漏らす。

(これは……夢なのか? それとも——)

 心臓がバクバクと鳴っていた。

(まさか……俺は……時間を巻き戻したのか?)



 病室の天井を見つめながら、俺はずっと考えていた。

 頭の中では、事故の瞬間の記憶が何度も再生される。

 でも、それと同時に、こうして再び病室で医師の診断を受けた現実が目の前にある。

「……湊?」

 ノックの音と共に、真が顔を出した。

「よぉ……大丈夫か?」

 その顔も、その声も——既視感の塊だった。

 そうだ。最初に診断された時も、こうして真が駆けつけてきた。

「……真」

 声が震えた。

「お前、倒れたって聞いて……無理してたんじゃねえのか?」

 真は心配そうにベッドのそばに腰を下ろす。

 それも全部知ってる。

「……なんか、ごめんな」

「バカ。お前が謝ることじゃねえだろ」

 言葉も表情も、あまりに同じすぎて——怖くなる。

(本当に……時間が戻ったのか?)

 理解が追いつかない。

「なあ、湊。何かあったか?」

 真がじっと俺の顔を覗き込む。

 少し迷ったが、今は話すわけにはいかなかった。

「いや……ちょっと頭が混乱してるだけ」

「そりゃそうだよな……でも、無理すんなよ」

 真は優しく微笑んだ。

(この優しさも……前と全く同じだ)

 俺はギュッとシーツを握りしめた。

(もし……本当にやり直せるなら——)

 思わず喉の奥が熱くなった。

(今度こそ、俺は後悔しない半年を生きよう)

(もう一度、やり直せるなら——この半年、最高にしてやる)

 新たな決意が、胸の奥に生まれ始めていた。
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