君と紡いだ奇跡の半年



 後夜祭のステージが終わったあとも、しばらく拍手が鳴り止まなかった。

 ライトに照らされた客席を眺めながら、俺は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

(最高の夜だった……)

「湊!」

 舞台袖に戻ると、真が満面の笑みで俺の肩を叩いてきた。

「やったな! 完璧だったぞ!」

「紗希も、コーラス完璧だったよ!」

 俺も紗希に笑いかけると、紗希は照れくさそうに微笑んだ。

「ううん、二人が引っ張ってくれたおかげだよ」

 俺たちは肩を組んで、そのままステージ裏でしばらくはしゃぎ続けた。

 幸せで、温かくて、これ以上何もいらないと思える時間だった。



 後夜祭が終わった帰り道。

 星空の下、紗希と二人きりで歩く。

「本当に……楽しかったね」

「うん。なんか夢みたいだった」

「ねえ……湊」

 紗希が小さく立ち止まった。

「私ね、今日思ったの。やっぱり私、歌うのが好きだなって。みんなで音楽作って、ステージに立って……最高だった」

「俺も同じだよ」

 気づけば、自然と二人の距離は縮まっていた。

「ありがとうね。誘ってくれて。私、軽音部入ってなかったら、こんな経験できなかったと思うから」

「誘ったのは真だけどな」

「でも……私、湊がいたから続けられたんだよ?」

 紗希がふわりと笑う。

 その表情に、胸が少しだけ高鳴った。

(前は……こんな風に素直に気持ちを受け止められなかった)

 でも今は違う。

 やり直した今だからこそ、俺は後悔したくなかった。

「……紗希」

「ん?」

「もし、またライブできるなら……また一緒にやってくれる?」

 紗希は少し驚いた顔をして——すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「もちろんだよ。私、湊たちとずっと音楽やりたいもん」

「……ありがとう」

 言葉にしきれない感情が胸の中で膨らんでいく。

 もっと早く、もっと素直に気持ちを伝えられるようになりたい——そう強く思った。



 翌日。

 文化祭の片付けを終えた放課後、音楽室にはまたいつものメンバーが集まっていた。

「さて、次はどうする?」

 真がギターを抱えてニヤリと笑う。

「次?」

「当たり前だろ。次の目標決めねーと張り合いがなくなるだろ?」

「そりゃ……そうだけど」

「次はさ——学外のイベント出てみねぇ?」

「え?」

 紗希と俺が同時に驚く。

「なにせ、後夜祭であんだけ盛り上がったんだ。ちょっと外にも出てみようぜ。もっとでっけぇステージ目指してもいいだろ」

「真……お前、いつの間にそんな野心家に」

「いやいや、湊が変わったから、俺もちょっと感化されてるのかもな」

 真が笑った。

 紗希もその提案に目を輝かせた。

「いいね! 学外のライブ……面白そう!」

 俺は——少しだけ考えて、ゆっくりと頷いた。

「うん。やってみよう」

 こうして、俺たちの次の目標がまた決まった。

(この半年を——もっと濃く、もっと輝かせるために)

(俺は、この時間を——全力で生き抜く)









 学外ライブへの挑戦が決まってから数週間——

 全国大会の応募準備を進めながらも、俺たちはひと時の穏やかな時間を過ごしていた。

 そんなある日、放課後の練習を終えた帰り際、俺は紗希に声をかけた。

「なあ紗希……今度の休み、ちょっと出かけない?」

 紗希は驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。

「……うん、行きたい」

 そのやり取りだけで、胸が少し高鳴った。



 当日——

 待ち合わせ場所の駅前には、少しだけおしゃれをした紗希が立っていた。

「湊……待った?」

「いや、今来たとこ」

 本当は少し前から来ていたけど、それは言わなかった。

 紗希は少しだけ恥ずかしそうに微笑む。

「……久しぶりに、こうやって二人で出かけるね」

「ああ……こういうの、たまにはいいな」

 向かった先は水族館だった。

 青い光に包まれた大水槽の前で、俺たちは並んで立った。

「綺麗だね……」

 紗希が小さく呟く。

「うん。なんか、時間が止まってるみたいだ」

 紗希はふっと目を細めた。

「ほんとだね……。もし本当に時間が止められたら、今この瞬間がいいな」

 その言葉に、胸が締め付けられた。

(俺も……同じこと思ってるよ)

 けれど、それを口にすることはできなかった。



 観覧車にも乗った。

 ゆっくりと上昇していくゴンドラの中で、しばらく沈黙が続く。

 紗希がポツリと呟く。

「湊は……怖くない?」

「何が?」

「将来とか……これから先のこととか……」

 一瞬、心がざわついた。

 でも、静かに笑って答えた。

「……紗希がいてくれるなら、怖くないよ」

 紗希は驚いた顔をしたあと、少し目を潤ませながら微笑んだ。

「……私も、そう思うよ」

 そのまま、俺たちはゆっくりと夜景の中を回り続けた——。


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