君と紡いだ奇跡の半年
後夜祭のステージが終わったあとも、しばらく拍手が鳴り止まなかった。
ライトに照らされた客席を眺めながら、俺は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
(最高の夜だった……)
「湊!」
舞台袖に戻ると、真が満面の笑みで俺の肩を叩いてきた。
「やったな! 完璧だったぞ!」
「紗希も、コーラス完璧だったよ!」
俺も紗希に笑いかけると、紗希は照れくさそうに微笑んだ。
「ううん、二人が引っ張ってくれたおかげだよ」
俺たちは肩を組んで、そのままステージ裏でしばらくはしゃぎ続けた。
幸せで、温かくて、これ以上何もいらないと思える時間だった。
*
後夜祭が終わった帰り道。
星空の下、紗希と二人きりで歩く。
「本当に……楽しかったね」
「うん。なんか夢みたいだった」
「ねえ……湊」
紗希が小さく立ち止まった。
「私ね、今日思ったの。やっぱり私、歌うのが好きだなって。みんなで音楽作って、ステージに立って……最高だった」
「俺も同じだよ」
気づけば、自然と二人の距離は縮まっていた。
「ありがとうね。誘ってくれて。私、軽音部入ってなかったら、こんな経験できなかったと思うから」
「誘ったのは真だけどな」
「でも……私、湊がいたから続けられたんだよ?」
紗希がふわりと笑う。
その表情に、胸が少しだけ高鳴った。
(前は……こんな風に素直に気持ちを受け止められなかった)
でも今は違う。
やり直した今だからこそ、俺は後悔したくなかった。
「……紗希」
「ん?」
「もし、またライブできるなら……また一緒にやってくれる?」
紗希は少し驚いた顔をして——すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「もちろんだよ。私、湊たちとずっと音楽やりたいもん」
「……ありがとう」
言葉にしきれない感情が胸の中で膨らんでいく。
もっと早く、もっと素直に気持ちを伝えられるようになりたい——そう強く思った。
*
翌日。
文化祭の片付けを終えた放課後、音楽室にはまたいつものメンバーが集まっていた。
「さて、次はどうする?」
真がギターを抱えてニヤリと笑う。
「次?」
「当たり前だろ。次の目標決めねーと張り合いがなくなるだろ?」
「そりゃ……そうだけど」
「次はさ——学外のイベント出てみねぇ?」
「え?」
紗希と俺が同時に驚く。
「なにせ、後夜祭であんだけ盛り上がったんだ。ちょっと外にも出てみようぜ。もっとでっけぇステージ目指してもいいだろ」
「真……お前、いつの間にそんな野心家に」
「いやいや、湊が変わったから、俺もちょっと感化されてるのかもな」
真が笑った。
紗希もその提案に目を輝かせた。
「いいね! 学外のライブ……面白そう!」
俺は——少しだけ考えて、ゆっくりと頷いた。
「うん。やってみよう」
こうして、俺たちの次の目標がまた決まった。
(この半年を——もっと濃く、もっと輝かせるために)
(俺は、この時間を——全力で生き抜く)
*
学外ライブへの挑戦が決まってから数週間——
全国大会の応募準備を進めながらも、俺たちはひと時の穏やかな時間を過ごしていた。
そんなある日、放課後の練習を終えた帰り際、俺は紗希に声をかけた。
「なあ紗希……今度の休み、ちょっと出かけない?」
紗希は驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。
「……うん、行きたい」
そのやり取りだけで、胸が少し高鳴った。
*
当日——
待ち合わせ場所の駅前には、少しだけおしゃれをした紗希が立っていた。
「湊……待った?」
「いや、今来たとこ」
本当は少し前から来ていたけど、それは言わなかった。
紗希は少しだけ恥ずかしそうに微笑む。
「……久しぶりに、こうやって二人で出かけるね」
「ああ……こういうの、たまにはいいな」
向かった先は水族館だった。
青い光に包まれた大水槽の前で、俺たちは並んで立った。
「綺麗だね……」
紗希が小さく呟く。
「うん。なんか、時間が止まってるみたいだ」
紗希はふっと目を細めた。
「ほんとだね……。もし本当に時間が止められたら、今この瞬間がいいな」
その言葉に、胸が締め付けられた。
(俺も……同じこと思ってるよ)
けれど、それを口にすることはできなかった。
*
観覧車にも乗った。
ゆっくりと上昇していくゴンドラの中で、しばらく沈黙が続く。
紗希がポツリと呟く。
「湊は……怖くない?」
「何が?」
「将来とか……これから先のこととか……」
一瞬、心がざわついた。
でも、静かに笑って答えた。
「……紗希がいてくれるなら、怖くないよ」
紗希は驚いた顔をしたあと、少し目を潤ませながら微笑んだ。
「……私も、そう思うよ」
そのまま、俺たちはゆっくりと夜景の中を回り続けた——。